欧州流財政問題との付き合い方
2010年12月27日
2011年の欧州の課題は、言うまでもなく財政問題の解決である。
ギリシャを発端とする財政懸念は、アイルランドからポルトガル、スペインへと波及している。年末にはイタリア、ベルギーも懸念対象として取沙汰され、各国の国債利回りの上昇傾向に歯止めがかかっていない。単一通貨ユーロは2009年末比で10%下落して年を終えそうである。
財政問題を解消するべく、各国は財政赤字削減に取り組んでいるが、単一通貨ユーロを導入しているために、通貨の切り下げや、金融緩和を独自に行うことはできない。構造的に財政赤字削減が難しい課題であるところに、国債利回り上昇がさらなる重石となっている。国債借り換えコストの上昇が財政赤字削減を困難にするとの理由で、国債の格付け引き下げ懸念が浮上し、一段と金利が上昇する悪循環が生じてしまっているのである。
事態打開には、各国の財政赤字削減努力に期待するだけでは不十分である。欧州首脳陣もこのことは理解しており、5月にギリシャ支援策として1100億ユーロの支援基金をIMFと共に設立し、また他のユーロ圏加盟国の財政難に備えた7500億ユーロ規模の欧州金融安定化ファシリティー(EFSF)設立を決めた。さらに12月のEU首脳会議では、アイルランドに財政懸念が波及したことを受けて、2013年6月で期限切れになるEFSFの後継となる常設機関の設置が基本合意された。ただし、その詳細は2011年3月までに詰めることになっており、金融市場が求めるスピード感には乏しい。また、そもそも以上の対策は財政懸念台頭を受けた対症療法の域を出ていない。
ではどのような解決策が望ましいだろうか。ユーロをなくすという選択肢はユーロ圏の政策当局者の念頭にはないと見受けられる。これは財政赤字削減で苦労しているギリシャも、財政負担の増加を警戒しているドイツも同様である。となると、ユーロ圏諸国の財政政策の統合を進めていくことが根本的な解決策であろう。よりストレートに言えば、ユーロ圏が存在することで経常収支の黒字を増やしているドイツから、赤字が累積してしまっているギリシャ等へ、所得を再分配する仕組みを作るのである。ルクセンブルグとイタリアが提案した「ユーロ圏共通債」も、ドイツやフランスが提案してきた「経済政府」も、この発想をベースにしていると考えられる。とはいえ、自国の財政負担が際限なく大きくなることに対する警戒感も根強い。財政政策統合の選択肢の一つと考えられるEU予算の拡大計画には、ドイツ、フランス、英国の大国がさっそく難色を示している。
財政赤字急拡大国には厳しい赤字削減策を求める一方、経常黒字国に恒常的な支援金支出を求める仕組みを作り、双方痛みわけとするにはどこに着地点を作ればよいか。これが2011年の欧州の最大の課題となろう。ただ、多数の国の意見を調整し、その結果を全会一致で承認しなければならないという欧州の方法は、意思決定に時間がかかる。2011年3月以降は南欧諸国で大型の国債償還が続くが、そこで金利上昇圧力がかかり、それに背中を押されて、財政問題対応が前進する展開が繰り替えされるのではないかと予想される。
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