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あまりにも複雑な年金額改定の仕組み

2010年12月22日

金融調査部 主任研究員 是枝 俊悟

2011年度の公的年金の支給額は、法律に則り、2010年度と比べて0.3%程度引き下げられる見込みである(※1)

公的年金の支給額は、もともと前年度の物価変動率に応じて改定される仕組み(物価が上がったらその分だけ年金支給額が上がり、物価が下がったらその分だけ年金支給額が下がる仕組み)であった。このため、「法律に則り」、というと物価が下がったらその分だけ年金支給額が引き下げられるのは当たり前のような気がするかもしれない。

しかし、2000年以降デフレが常態化しつつある中で、実際に年金支給額が減額改定されたことは過去10年で3回(2003年度、04年度、06年度)しかない。

数次の法改正を経た現在、年金額は非常に複雑な仕組みで決定されるようになっている。

例えば、国民年金に40年加入した場合の年金支給額(年額)の決定方法は以下のようになっている(※2)

(1) 78万900円(ベースとなる年金支給額)に、「改定率」(2004年度における改定率を1とし、原則として前年の物価変動率を乗じて毎年度改定する)を乗じて金額を算出する(国民年金法第27条、27条の2、27条の3)。
(2) (1)で計算した金額が80万4,200円に「0.985」を乗じて得た額に満たない場合は、80万4,200円に「0.985」を乗じた金額とする(国民年金法平成16年附則7条)。
(3) ただし、各年の物価水準が2005年の物価水準を下回った場合は、翌年度、(2)における「0.985」という値を「0.985に2005年の物価水準を下回った率を乗じた値」に改定するものとする(国民年金法平成16年附則7条括弧書き)。

「法律に則り」2011年度の年金支給額を引き下げるというのは、この(3)の規定を適用して「0.985」という数値を読み換えることを意味しているが(※3)、あまりにも複雑な規定が入り組んでおり、このことを国民全てが理解することなど到底不可能といえるだろう。 公的年金は国民の老後の暮らしを支える大事なものであり、その支給額の改定の仕組みは、もっと国民に理解しやすい簡単な方式にするべきではないだろうか。

参考:厚生労働省ウェブサイト「年金額の改定の仕組み

(※1)12月21日付日本経済新聞朝刊1面などの報道による。なお、当初、菅首相は特例法を制定して2011年度の支給額を現状維持とすることを検討するとしていた。
(※2)端数処理の計算方法は省略する。また、年金受給開始から3年経過した以後の者の年金支給額の計算方法をここでは紹介している(新規年金受給者の年金支給額の計算方法はこれとは異なる)。なお、いわゆる「マクロ経済スライド」は(1)によって計算した額により年金支給額が決定されるようになってから行われる予定であり、2010年現在一度も行われたことがない。
(※3)法律上は「0.985」という数値は、「0.988」とされている。2005年に0.3%物価が下落した際に、(3)の規定により「0.988」という数値が「0.985(≒0.988×0.997)」に読み換えられ、2006年度以降の年金支給に用いられている。

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是枝 俊悟

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金融調査部
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