インターネットラジオから学ぶ情報活用術

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2010年12月21日

  • 二宮 聡広
最近帰宅後にインターネットラジオを聴くことが日課となっている。ここでいうインターネットラジオとは、単にインターネット経由で既存のラジオ局を聴くものではない。提供者のウェブサイトに好きなミュージシャンや曲名を入力するだけで自動的に類似性の高い曲が配信されるサービスである。新たに自分好みの曲に出会えることや、スマートフォンで利用できることもあり、近年米国で流行している。いわば、自分の嗜好や気分にあった曲のみが流れてくるパーソナルなラジオ局サービスといえる。

このインターネットラジオを提供しているある事業者では、曲毎にそれを構成する旋律やリズムなどの特徴を細かく分類してデータベースに登録している。ユーザは流れてきた曲に好き嫌いをオプションで登録できる。提供者はそのユーザの曲に対する好みをもとに、その人の好みにあうとみられる曲を選び自動配信している。

人の好みは千差万別である。このインターネットラジオは、商品の特性分析や、様々な人の好みを分類し、ユーザの気に入る曲をうまく推測できている。好みを分析してユーザのニーズを満たそうとするアプローチはその他の分野へも有効であろう。例えば、大手の個人映像配信サイトでは、分析からユーザの好みにあう映像を連続的に流すことでサイトの滞在時間を延ばそうとしている。レストラン選びやファッションの情報配信など、嗜好性が強く反映される分野でも適用できるだろう。ユーザがある商品の好き嫌いを伝えるだけで、自動的に好みのあうサービスや商品情報を選択、利用できる。これは、インターネットを用いたマーケティング手法の成熟の賜物といえよう。

企業内部の情報活用においても、このような嗜好性や関連性の分析などの手法を活かせる分野はないだろうか。例えば、社内で投票機能などを用いてどのような情報がどのような時に有用な情報かを分類して、その情報が必要とみられる社員へ自動配信することができれば有効な情報共有に繋がるだろう。また、人材配置においても社員のバックグラウンドや経験業務、人とのつながりを分析することにより人材の最適配置が可能となるだろう。

今まで、企業はこのような社員の意見や属性情報をうまく活用できておらず、そのような情報は特定の社員の暗黙知に留まっていた。その大きな理由はそのような情報を共有するための仕組みがなく、さらに経営層と若手のITリテラシーに大きな差があったことが挙げられる。しかし、ソーシャルネットワークなど一般向けコミュニケーションツールの流行により、これらを企業内でも活用して社員の結びつきや情報共有の質を高めようという動きが最近みられる。また、世代交代とともにITを積極的に活用しようとする経営層も現れ始めており、少しずつその溝は埋められつつある。そもそも近年のグローバル化により、そのようなコミュニケーションツールを使わないと点在する社員の声が拾えないという背景もあるだろう。

日本企業においても、世界中に分散した人材の最適配置や質の高い情報の共有を進めなければ今後生き残りが難しくなる。そのために、社員の意見や属性情報、社員のつながりを分析して情報共有を活性化していくことは必要だろう。インターネットラジオなどで用いられる一般向けのマーケティング手法をヒントに、企業内でもこのような情報活用術を検討してみてはどうだろうか。

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