ドル高は続くか

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2010年12月16日

  • 亀岡 裕次
米長期金利とともにドル相場が反発した。ドル高は今後も続くのだろうか。

まず、米金利上昇の背景を考えてみよう。まず、米30年国債は2010年8月末、10年国債は10月上旬を底に反発したが、8月下旬には期待インフレ率も上昇し始めていた。FRBの追加量的緩和期待を背景に金利が下がる一方で、株価や商品相場が上昇を始めたからだ。FRBが米国債を購入してドルを市場に供給することが、株式や商品の価格上昇を通じて将来的なインフレ期待を高め始めたのである。そしてさらに、QE2(量的緩和第二弾)決定後の11月上旬には、5年物以下の短めの金利までもが上昇に転じた。10月米雇用統計が強い内容だったことがきっかけだが、量的緩和のさらなる拡大はないとの見方が強まり始め、マイナスにまで低下していた期待実質金利が反発したのである。いくら量的緩和を拡大して実質金利を低下させようとしても、インフレ期待を通じて長期金利が上昇するようでは、弊害が大きくなってしまう。量的緩和もついに限界に達したということだ。

では、米金利上昇は続くのだろうか。第一のカギは、インフレ期待にあるが、それを左右する要因の一つが、株価や商品相場の動向だ。市場がリスク選好に傾いた状況で株高や商品高が続けば、インフレ期待が高まり、金利上昇要因となる。5年物ベースの期待インフレ率は1.6%台にあるが、これが2%を超えてくるようだと、FRBの金融緩和姿勢にも変化が出てくるだろうし、期待実質金利面からも金利が上昇しやすくなる。第二のカギは、米国の雇用情勢にある。雇用の増加ペースが上がり、失業率の低下基調が明確となれば、FRBは金融緩和を続ける理由が乏しくなるし、期待実質金利とともに金利が上昇しやすくなる。すでに米個人消費は株高などの資産効果が影響し、自動車などの耐久財消費を中心に7月以降、増加ペースを高めている。富裕層を含めて所得税減税が2年間延長されたこともあり、消費回復が雇用増にも波及する可能性は高まりつつある。株価の上昇基調が続けば、消費と雇用の拡大が金利上昇をさらに進めることになるだろう。

つまり、米国の金利上昇は、株高が続くか否かにかかっている部分が大きい。おそらくは、株高基調は続きやすいだろう。なぜなら、米国以外の国を含めても景気回復基調が続いているからだ。ユーロ圏ではソブリンリスクから長期金利が上昇したものの、スペイン以上の大規模な国では大幅なものではないし、同時に進んだユーロ安がドイツなどを中心にユーロ圏経済を支えている。また、もう一つの理由として、米国の長期金利から株式益回りを引いた水準がまだかなり低いので、長期金利が上昇しても株価は下落しにくいからだ。世界的にみても総じて金利水準は低く、金利上昇が株安を招くリスクはまだ小さいだろう。こう考えると、米金利上昇とドル高は今後も続く可能性が高い。

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