新たな高齢者医療制度と一元的運用

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2010年12月08日

  • 鈴江 正明
現行の後期高齢者医療制度は、小泉内閣の医療制度改革の一環として老人保健制度が全面改訂され、平成20年4月からスタートした。都道府県単位の広域連合を運営主体としたり、高齢者医療給付費について負担割合を公費5:現役世代4:高齢者1としたり、財政の安定化や費用負担の明確化・公平化が図られたことは評価できるものであった。一方、後期高齢者というネーミングの悪さ、年齢(75歳で一律)による差別的な取り扱い、個人単位で保険料が徴収されるため扶養高齢者の保険料負担の発生、年金からの保険料天引きなど様々な問題を抱えていた。

その後、平成21年8月の衆議院選挙で民主党が圧勝し、民主党中心の3党連立政権が誕生したのであるが、民主党のマニフェストには後期高齢者医療制度の廃止が掲げられていた。それに沿って、平成25年4月を目途に、新たな高齢者医療制度の導入が高齢者医療制度改革会議で検討されているところである。高齢者に対する支援金に全面総報酬割が提案され、今後、加入者の年収が比較的多い健康保険組合などに応能負担が求められるようである。加えて、民主党のマニフェストでは、健康保険組合などの被用者保険と国民健康保険を段階的に統合し、将来、地域保険として一元的運用を図るとされている。創意工夫を持って保険者機能の発揮に努めている健康保険組合にとって、悩ましい問題である。

では、本当に一元的運用が必要なのであろうか。財政の安定化という観点から見れば必要と言えるが、企業サイドの事情はどうであろうか。

少子高齢化が進行し労働力人口が減少するなか、企業が熾烈化するグローバル競争に打ち勝ち継続的な成長を達成するためには、従業員一人ひとりが能力を最大限発揮し生産性を向上させなければならない。そのためには、従業員の不安を取り除き、心身ともに健康な状態を維持することが必要不可欠ある。健康管理が企業として問われる時代になったといって過言ではない。企業は、健康保険組合の運営に主体的かつ戦略的に取り組むことで他社との差別化を図り、企業価値を増大させることができるのである。健康保険組合の果たす役割がより一層重要になってきていると言えよう。

このような環境下、一元的運用が果たして有益なのであろうか。健康保険組合は、医療費を少しでも削減するため様々なことに鋭意取り組んでいる。この努力を無駄にしないためにも、今後の幅広い議論を期待したい。

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