輸出反転のシグナルが点灯

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2010年12月07日

  • 渡辺 浩志
世界経済や為替の動向から日本の輸出の先行きを予測すると、来年2月頃までは比較的速いペースでの悪化が見込まれる。一方、3月以降は、輸出に反転の動きがみられるだろう。このところ各国の景況感が改善し始めたことや、為替が11月の米国FOMCに前後して円安方向に転じてきたことの影響が出てくる見込みだ。なお、米国や中国の実体経済は来年以降好転し、回復が続くとみている。輸出の持続的な回復のために、残す問題は為替である。ただし、海外経済の復調による円安期待に加え、金融資本市場の環境も円安を示唆するものとなってきている。

為替の先行きを占うため、市中に流通するマネーの過剰度をマーシャルのkで量り、その日米比の伸び率と為替の関係を見た(図参照)。これは為替の動きに1年半程度先行する傾向があり、来年末にかけて1ドル90円台半ばを目指して円安が進行する可能性を示唆している。来年度は海外経済の回復に加え、為替の面からも輸出には追い風が吹く可能性があろう。こうした循環的な輸出の拡大シグナルが出てきたことは明るい材料だ。この先、日本の景気は停滞するものの、後退には陥らないとみる大きな根拠である。

一方で、持続的な輸出の拡大はまた別の話だ。世界貿易総額に占める日本の輸出シェアは、94年以降、ほぼ一貫して低下してきたが、その原因に傾向的な円高があった面は否めない。この先も世界各国が輸出を成長戦略の切り札とする限り、通貨安志向は根強く残るものと見込まれる。

しかし、世界的には通貨安競争を止め、自由貿易を推進する方向に議論が向かっている。横浜で開催されたAPECに先立ち、日本でもTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加論議が沸いた。TPPなど自由貿易の推進は、通貨安競争とは対照的な議論だ。通貨安競争は自国の利益を追求した世界貿易のシェア争いに終始し、結果として世界貿易そのものを縮小させる。局所的な最適化が全体の悪化を招く縮小均衡(合成の誤謬)の議論である。これに対してTPPは貿易全体を活発化させ世界経済の成長を促すという意味で拡大均衡の議論である。シェア拡大よりパイ拡大を志向するまともな議論の高まりに期待したい。TPPの前に越えるべきハードルは多く、日本の参加は不確実な情勢だが、これが持続的な輸出拡大の切り札と認識すべきだ。輸出の循環的な回復に油断せず、持続的な拡大に本腰を入れて取り組むべきときである。

過剰流動性と為替

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