東アジアのために

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2010年10月06日

  • 川村 淳一
先日、ある大学が中心となって開催された、東アジアに関する国際シンポジウムに出席する機会があった。リーマン・ショック以後、欧米の経済停滞をよそに高成長を続けている中国経済と、20年にも及ぶ低成長を続ける日本経済とを議論の中心に据え、将来の東アジア経済圏の課題と展望について、有識者らが意見表明や討論を行ったものである。ちなみに、外務省の資料によると、定期的に開催されている「東アジア」首脳会議への参加国は、日、中、韓の3カ国にASEAN10カ国と豪州、ニュージーランド及びインドである。つまり、最近では東アジアという概念には、一般的な見方よりも広い範囲が含まれるようになってきており、本欄でも東アジアを地域としては広く捉えたい。

これらの国・地域を東アジアの構成員と見なした場合、15億人の人口を抱える日、中、韓に、インドの10億人強とASEANの6億人弱を足して、実に世界人口68億人の半分近くがこの地域に居住していることになる。また、アジア全体の合計GDP(2009年のIMF統計)は、約15兆ドルと全世界の4分の1程度を占めているが、2015年には24兆ドル超へ拡大する予想である。その大半を東アジアが占めることになり、しかも、単純に計算した平均1人当たり名目GDPは4千ドル程度と低く、今後の成長期待も大きい。また、平成22年版通商白書によると、アジアの域内貿易依存度は53%(2009年10月)、アジア太平洋地域(APEC)で見た場合は65%(2008年)と、貿易依存度も上昇している。

このように存在感も、相互の依存度も増している東アジアには、近い将来に解決を迫られる地域共通の問題がいくつも指摘されている。数年先から始まる韓国、中国、ASEAN諸国の生産年齢人口のピークアウト、日本以上の速度ですすむ高齢化に伴う社会保障制度の整備の問題、生存に関わる食料・水・エネルギー供給の問題、国境を越えた広がりを見せる環境問題等である。中でも東アジアの波乱の震源となる可能性が高いのは、中国の都市と農村の格差をいかに是正するかの問題だと思われる。現時点では、高い経済成長に隠れているが、ここ数年の中国の都市と農村の格差は一段と拡大したといわれる。言い換えれば、東アジア地域での高度成長に伴い発生し、また、高度成長が覆い隠してきた環境、社会等の歪みが、持続的発展の大きな脅威となってきているのである。

東アジア全体の安定と持続的な成長のためには、日本が戦後の発展で得た多くの知見や経験等を、中国はじめ東アジアに提供し、こうした問題への対策を共に考えていくべきであろう。過去のようなハード面だけではなく、むしろ今後は、環境・公害法制、教育制度、年金・社会保障制度等、ソフト面での貢献が重要になってくる。また、多くの貢献を行う日本自らも、東アジアの隣人たちのダイナミズムを取り入れて、再び成長の軌道を目指すことが期待できるはずである。

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