円高進行と金融政策、為替介入策

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2010年09月15日

  • 牧野 潤一
15年ぶりの円高を受け、株安や景気不安が広がっている。

企業収益の悪化が懸念されるが、今年度の製造業の収益について、円高耐久力を求めてみると、営業利益が減益となる円ドルレートは80円/ドル程度、赤字となるレートが67円/ドル程度と試算される。赤字までにはかなり糊代があるが、減益の可能性は十分ある。

円高対策として、政府・日銀の対応が期待されているが、日銀は8月30日に追加緩和策を打ち出した。新型オペを10兆円追加して30兆円規模にするというものである。しかし、為替市場の反応は薄く、円ドルレートはほとんど変化しなかった。これは、現在の為替が日米の短期金利差で決まっており、短期金利に影響を与える政策でなければ効果が薄いためと思われる。有効な手段は、追加量的緩和策よりも金利政策、すなわち利下げということになる。

しかし、日銀が直ぐに利下げに動くのは得策ではないだろう。これはFRBが利下げする可能性があるためである。仮にFRBが利下げに踏み切った場合、日米金利差は逆転し、円ドルレートは76円/ドル程度まで上昇するリスクがある。日銀としてはFRBが利下げした場合に備え、利下げのオプションを残しておく必要があるだろう。

次善の策として為替介入が考えられる。しかし、円-ドルの為替取引高は、1日当たり約50兆円もあり、それに比べ為替介入額は1日当たり5千億円~1兆6千億円と小さい。為替介入で相場のトレンドを変えるのは難しい。過去の事例をみると、為替介入が有効であったのは、それが大幅な利下げとセットの場合である。例えばメキシコ危機後の円高局面での介入(95年)では、それと同時に日銀が大幅な利下げ(僅か半年で1.25%pt利下げ)という援護射撃を行ったため、為替は円安に転換した。しかし、現在の状況は、利下げ余地が極めて小さいため、為替介入の効果は期待し難い。

残念ながら、為替レートのトレンドを変えるものは、日本側にはなく、米国側の変化となるだろう。その点、もし米国がリセッションに陥るようであれば、米国利下げの期待が高まり、円ドルレートは80円/ドルを割り込む可能性が出てくる。ただ、米国がリセッションに陥る可能性は、当社試算の景気後退確率によれば、足下で30.4%、先行きも50%程度に止まる見通しであり、その可能性は低い。景気後退が回避され、利下げ期待が高まらないならば、金利差は不変となるから、当面、円レートは84円前後で膠着状態となるだろう。しかしその後、米国の景気懸念が薄らいでくる年末頃からは、米国の先物金利が徐々に上昇していき、円高は修正されていくと予想される。

米国の景気後退確率

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