クラウドコンピューティング本格化にむけて
2010年08月24日
クラウドコンピューティングという言葉を経済紙で見ない日はないくらい、今年はよく使われている。クラウドコンピューティングで先行する米国では、検索エンジン大手のグーグルやネット書籍通販大手のアマゾン、顧客管理支援に強いセールスフォースドットコムなどがよく知られている。日本でも、昨年政府が導入したエコポイントや定額給付金(一部の自治体)にセールスフォースドットコムが採用されたことは記憶に新しい。これを受け、昨年後半くらいから、日本のハードメーカー、ネットワーク提供事業者、システムインテグレーターもこぞってクラウドビジネスに参入してきている。
クラウドコンピューティングは、「所有から利用へ」というコンセプトのもと普及してきた。経済産業省ではこれを『「ネットワークを通じて、情報処理サービスを、必要に応じて提供/利用する」形の情報処理の仕組み(アーキテクチャー)』と定義している。
ただ、日本でクラウドコンピューティングを導入する際に懸念点として指摘されているのは、ネット経由のため遅延が発生しリアルタイム性が担保されていないこと、異なるクラウド事業者間で相互接続が保証されていないこと、外部プロバイダーを使う場合に個人情報保護やデータ管理に関して懸念があること、などである。
これらの懸念点に対して一つの示唆を与えているのが、経済産業省が8月16日に発表した「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書 である。
この報告書は5章からなり、第1章で対象となるクラウドコンピューティングの概念を説明、第2章ではクラウドコンピューティングによりもたらされるイノベーションとその効果(経済効果、CO2削減効果)を概観、第3章ではクラウドコンピューティングを取り巻く要素である、データ、プラットフォーム、人材の3つの観点から整理しながら国内外の現状を分析、第4章では、第3章を受けて「イノベーションの創出」「制度整備」「基礎整備」の3つの観点でクラウドコンピューティングを実現するための方策案を説明、最後の第5章では、方策実現に向けたロードマップを示している。
特にこの報告書で参考となるのは、クラウドコンピューティング市場を整備・成熟化させる方策として、(1)サービスレベルチェックリストなどの整備、(2)情報セキュリティー監査制度の検討、(3)国内やアジア地域大でのディザスタリカバリ技術・体制の構築、(4)政府調達基準のクラウドコンピューティング対応、と具体的に挙げている点である。さらに、サービスレベルに関しては、別添でチェックリストを提示しており参考となる。
表.クラウドサービスレベルのチェックリスト(抜粋)
種別 | サービスレベル項目例 | 規定内容 | 測定単位 | 設定例 |
---|---|---|---|---|
可用性 | 計画停止予定通知 | 定期的な保守停止関する事務連絡確認 | 有無 | 30日前にメール/ ホームページで通知 |
サービス稼働率 | サービスを利用できる確率 | 稼働率(%) | 99.9%以上(基幹) 99%以上(基幹以外) |
|
重大障害時の代替手段 | 早期復旧が不可能な場合の代替措置 | バックアップデータの取得が可能なホームページを用意 | - | |
信頼性 | 平均復旧時間 | 障害発生から修理完了までの平均時間 | 時間 | 1時間以内(基幹業務) 12時間以内(上記以外) |
障害発生件数 | 1年間に発生した障害件数 | 回 | 1回以内(基幹業務) 3回以内(上記以外) |
(出所)2010年8月16日経済産業省、「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」
報告書(別添資料より一部抜粋)
今後、日本市場においてクラウドコンピューティングが広まっていく中で、キーとなるのは信頼性と標準化ではないかと考えている。米国のクラウドコンピューティングは先行しているものの、稼働率にやや不安があること、クラウド事業者間の乗り換えが容易でない(ベンダーロックイン=ベンダーに縛られた状態)という事情がある。
これから、クラウドコンピューティングをサービスとして利用する場合も、ビジネスとして参入する場合も、信頼性と標準化に留意しておく必要があろう。
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