転機を迎えた上海市場

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2010年08月18日

  • 由井濱 宏一
中国本土市場は転機を迎えた可能性が高く、今後年末に向けて再評価される動きとなろう。まず、利上げの可能性がかなり低下しつつあることが市場心理の好転に寄与するだろう。確かに足元のCPIは10年の政府目標である3%前後の水準にあるが、上昇率のピークに近づきつつあると思われる。原材料価格の総合指数であるCRB指数は09年夏場から年末にかけて20%超の上昇(09年7月8日、231.21pt →同12月31日、283.38pt)となっており、ベース効果と10年年末のCRB指数のDIR予想(280 pt程度)を勘案すると今後、物価上昇圧力はそれほど高まらないだろう。世界景気の回復基調のモメンタムは今後やや弱まるとみられることが背景である。実際、15日に発表されたPPI(7月)は前年比+4.8%と前月(同+6.4%)から更に低下した。

また、より重要なのは足元で不動産価格の調整が進んでいる点である。7月の不動産価格指数(全国70主要都市ベース)は前年比+10.3%となったが、これはデータ採取以来の最大の伸び率であった4月の同+12.8%から3カ月連続の伸び率縮小である。前月比で上昇モメンタムを見ると、7月はほぼ横ばいとなり上昇モメンタムはかなり弱まってきている。

過去を振り返ると07年年央~年末の期間にも不動産価格上昇のモメンタムが強まり、同時にCPI伸び率も上昇トレンドにあったことで利上げが継続したが、不動産価格の07年12月の前月比上昇率は急落。08年1月以降は利上げ打ち止めとなった経緯がある。今回はこれまでの一連の不動産投資規制が効果を表し始め、上昇率の低下につながっているとみられるが、中国政府は当面、政策効果を見極めるべく様子見姿勢をとる公算が大きいのではないかと思われる。不動産価格の騰落が国内消費に及ぼす影響度(感応度)の大きさを考慮すると、追い討ち的な利上げに踏み切る可能性は低いといえそうだ。

更に、最近指摘されることだが、上海市場上場のA株と香港市場上場のH株との価格差が急速に縮小してきていることも、とりわけ本土市場上場のA株の再評価を促すだろう(下図のA-Hプレミアムの図を参照)。もともと上海、香港の重複上場銘柄の株価比較では中国本土市場が海外投資家に開放されていないことで、中国内の投資家の投機的売買が中心のA株のバリュエーションがH株を上回るのが通常であった。しかし、A-H株プレミアム指数の動きをみると足元ではむしろA株がH株に対してわずかながらディスカウントとなっており、A株の売り圧力がいかに強かったかがわかる。ディスカウント状態になるのは06年11月以来で、当時はその後、上海総合株価指数の上昇に弾みがついた。

上海、香港重複上場銘柄別にH株のA株に対するディスカウント状況(香港ドルベースに換算)をみるとディスカウントがほぼないか、逆にA株の株価を上回っている銘柄には、銀行や保険など時価総額上位に位置する銘柄が中心となっている。A-Hプレミアム指数が急落してきたのもこれが主因だろう。一方、電力セクターや空運、エネルギーや素材の一部などは依然としてA株がH株に対してプレミアム状態が続いている。今後、A株の再評価が起こるとすれば、銀行、保険セクターのリバウンドが先行する可能性が高いだろう。

A- Hプレミアム指数の推移

A-Hプレミアム指数の推移

注:同指数が100を上回るとA株がH株に対して割高、100を下回ると割安と判断
出所:ブルームバーグ

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