人々は新しいコミュニケーションツールを使いこなせるか?

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2010年08月16日

  • 二宮 聡広
以前、ニューヨークタイムズ紙で興味深い記事が掲載されていた。ソーシャルネットワーキングサービス(以下SNS)facebookのプライバシーポリシーの語数が米国憲法の語数を超えたという。ユーザがプライバシーへ注目するに伴い、プライバシー設定機能の詳細化を進めた結果、そのプライバシーポリシーの語数は2005年時の1004語と比較して2010年では、5830語に膨れ上がったという。

facebookに代表されるSNSのユーザが全世界に広がるとともに、米国においてはアクセス数でグーグル社の検索サイトに匹敵するなど人気を博している。SNSは、自分の近況などを自身の友達リストに登録したユーザなどに向けて配信することができる。また、特定のユーザに簡単にメッセージを送信したりイベント参加者を募ったりできるなど、気楽にコミュニケーションができるため、若者を中心に利用が増加している。もはやメールアドレスや電話番号など連絡先を交換しなくても名前とSNSの利用有無だけで人と人が繋がる時代なのである。グーグル社が危機感を強めてSNSへの機能強化を発表するなど、SNS旋風はとどまる所を知らない。

冒頭でも記載したように、プライバシー問題はこのSNSで今一番の課題となっている。自分の情報を知り合いに手軽に情報発信できるその代償として、一つ設定を間違えれば意図せずに自身のプライベートな情報が望まない人に公開されてしまう危険を含んでいる。筆者がSNSを利用した雑感では、家族や友達の写真など非常にプライベートな情報を掲載している人は多い。そして、面識のないユーザからの友達リストへの追加依頼がたまに届くこともある。これに加え、筆者の写った写真が了承なしに公開されてしまうことも度々ある。しかも、他のユーザがどのようなプライバシー設定をしているかを知ることはできない。ニューヨーク州の上院議員からは、ユーザのプライバシーに関しての教育が十分に浸透していないうちは、自身で設定変更を行わない限り公開できないようにするべきとの声もあがった。

最終的にはそのサービスを利用する個人の責任に帰結するかもしれない。しかし、発信した情報の閲覧権限が思い通りであることを確認するのは困難である。また、プライバシー設定の更なる問題は、実際に出会ったことのないユーザをSNS上で友達リストに登録できることにある。なりすましや悪意のあるかもしれない、面識のないユーザが親しく友達登録を依頼してきた場合、それをついつい承認することはよくあることだろう。個人情報収集を目的としたユーザにとってみればSNSは個人情報の宝庫でもある。一度その友達リストに追加されれば、そのユーザやその友達の趣味や日常生活、最近の興味をまとめて、法にふれることなく取得することができてしまう。

SNSの正しい使い方を親や教師から教えてもらった人などは皆無に近いだろう。SNS自体が使われ始めてまだ日が浅く、ユーザにとって正しい使い方とは何か、どのようなリスクがあるのかが分からない段階にあり、手探りで使っているユーザが多いのも事実である。それでもユーザが増え続けているのは、SNSは場所や時間だけでなく国や人種の垣根を越えて世界中の人々を結ぶ画期的なコミュニケーションツールだからである。国や人種をまたいでSNSを利用している場合、小さなコミュニティ内での暗黙的な常識は通用しない。そもそも世界中の個々人のプライバシーへの意識をそろえることは不可能に近い。だからこそその危険性を認識したうえで、その利便性とプライバシーをそれぞれ最適なバランスに保たせながら上手に使いこなすことが各自に求められるのではないだろうか。

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