続 中国の不動産価格高騰はバブルなのか?
2010年08月04日
「中国の不動産価格高騰はバブルなのか?」この問いに対して、先日のコンサルティングインサイトにて、現在の中国不動産価格は「全国平均でみれば」必ずしもバブルとは言えないと論じた(2010年5月20日コンサルティングインサイト)。つまり、過去の日本の不動産バブルや米国のサブプライムバブルに比べて、足元の中国の経済環境はGDP成長率が高いなどの理由から、平均的に見て不動産価格上昇は許容範囲内にあると結論した。
しかし、ここで1つの疑問が生じる。というのも中国では、GDP成長の目標達成のためか効率性・採算性の低い都市開発等が相次いで行われていると聞く。非効率な開発投資であってもそれ自体は足元のGDP成長にカウントされるが、将来的な経済活動に余り寄与しない開発であれば、足元のGDP規模と比べた不動産価格を論じても余り意味はないとも考えられるからである。もしGDP成長率の高さが将来を含めた真の経済の実力を現していないならば、地価上昇が許される範囲も自ずと限定されるのではないか。
ところで、都市開発などの投資の採算性をマクロベースで判断するのは難しい。このため、ラフな方法ながら、GDPから総固定資本形成(いわゆる箱モノ投資)を全て除いたときのインパクト、すなわち総固定資本形成の成長がGDP成長をどの程度押し上げているのか試算して、あるべき経済成長とのギャップの可能性を探ってみる。
08、09年の2年間における総固定資本形成によるGDP成長の押し上げ効果を計算すると、7割程度と非常に大きいことが分かる。このことは逆に、不動産価格/GDPの弾性率(※1)が最大7割過小評価されている可能性を示している。つまり、先般コンサルティングインサイトで計算された中国の不動産価格/GDPの弾性率(直近2年間)0.757は過小評価されている可能性があり、仮にこれが7割上昇すると1.29と1を上回る水準にまで上昇する(※2)。もっともこれは、日本の平成バブル(85~89年)の弾性率(1.49)や米国のサブプライムバブル(00~05年)の弾性率(2.38)と比べるとまだ低い水準に止まると評価することもできる。
加えて、上記の計算はあくまで「2年間」という期間のGDP成長の押し上げ効果を計算したものに過ぎない。今般の4兆元景気対策のように、政策的要因によって1~2年間GDP成長が急激に押し上げられることは過去にもあった。一方で、図表1はGDPに占める総固定資本形成の比率の時系列グラフを示したものだが、5年間ベースで総固定資本形成による押し上げ強かった期間は00~04年の1期間に限られ(図中では矢印で記載)、同期間における押し上げ効果は約3割と算定される。このように5年間という比較的長期に亘って押し上げが継続した場合はともかく、足元の2年間に限って「7割」と算定される押し上げ効果をそのまま受容するわけにはいかない。
もちろん、短期的にみて不動産価格がGDP成長を上回って上昇していることは確かである。しかし、まだ短期的なオーバーシュートの域を出ていないこと(ソフトランディングの可能性があること)、そもそも弾性率が日本の不動産バブルや米国のサブプライムバブルと比べて低水準であるなどの事情もある。ここ1~2年の開発投資過剰状況が今後も継続して、実質的な弾性率の上昇が見られない限りは、全国平均で見て中国不動産価格の上昇はバブルとは言い切れないというスタンスにかわりはない。
(※1)(不動産価格/GDPの弾性率)=(不動産価格の平均上昇率)÷(GDPの平均上昇率)。先日のコンサルティングインサイトでは、日本・米国・中国の過去の弾性率を計算した結果、バブル状況の目安として弾性率が1を大きく上回る状況を指摘した。
(※2)直近1年間(09年)の弾性率は2.63と非常に高いがこれは08年に不動産価格が下落したことの反動による一時的なものと捉えることも可能だ。08年はサブプライムバブル崩壊のあおりを受けて、GDPが高成長していたにも関わらず不動産価格は下落している。09年はこの反動を受けて価格急騰した可能性があり、少なくとも07年以降2年間の平均をとる必要があると判断している。
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