「新成長戦略」の担い手としてのファミリービジネス

RSS

2010年07月26日

  • 鈴木 紀博
「国家の成長戦略」に関する議論が活発である。本年6月に閣議決定した『新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~』は、(1)環境・エネルギー、(2)健康、(3)アジア経済、(4)観光・地域活性化、(5)科学・技術・情報通信、(6)雇用・人材、(7)金融、という7つの戦略分野から成る。

これらの分野における「新たな成長」の担い手として、「ファミリービジネス」の存在に注目したい。「ファミリービジネス」に明確な定義はないが、全国各地に存在する「オーナー経営による老舗企業」といったイメージである。

ファミリービジネスは、(1)相続、(2)後継者の育成、(3)コーポレート・ガバナンスなどの点で課題を抱えている場合も多いが、他方で、(1)長期的視点による経営、(2)迅速な意思決定、(3)地域との共生などで優れた面もある。

ファミリービジネスは、創業以来その地域とともに歩み、財・サービスの提供はもとより、雇用機会の創出、地域経済の推進役などの役割を担っている。このほか、地域における高い信用をテコとして、以下のような分野で多くの実績を築いている。
(1)文化:有形・無形の文化財の保護や継承など
(2)スポーツ:プロスポーツのスポンサー、少年少女スポーツの振興など
(3)環境: 自然環境の保全、地域特産品の保護や拡販など
(4)教育・人材: 奨学、技能継承など

これらの分野は「新成長戦略」の戦略分野と重なる面も多い。ファミリービジネスに「新成長戦略」の担い手となってもらうためには、これから検討すべき課題も多々ある。例えば、
(1)同族会社に対する留保金課税や寄付金税制
(2)財団を通じた各種事業の支援促進
(3)ファンドを通じた資金調達による地域振興事業
などである。但し、古い企業に対する支援は、一方で新規参入や産業の新陳代謝を阻害するので、真に地域活性化や「新たな成長」に貢献する事業は厳選されなければならない。

「新たな成長」の担い手は、資金力のある大企業や技術力のあるベンチャー企業だけではない。日本には創業100年を超える企業が2万~3万社あると言われており、日本は世界でも有数の「ファミリービジネス大国」である。長い歴史の中で積み重ねられた「信用」という資源を活用して、地域の老舗企業が新たな価値を創出する可能性もある。

「新成長戦略」というと、内向きなものや過去のものは捨象されがちだが、地域連携という「横の糸」とともに、歴史や伝統という「縦の糸」も忘れてはならない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。