財政健全化 vs 景気回復

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2010年07月22日

  • 山崎 加津子
月末にG20サミットを控えた6月半ば、財政健全化を重視する欧州と、景気対策を重視する米国の対立の図式が表面化した。

欧州では財政赤字急拡大と格下げで金利が高騰したギリシャを筆頭に、ポルトガル、スペインが緊縮財政政策を5月に相次いで打ち出した。ここにアイルランドを加えた4カ国は、2009年の財政赤字が名目GDP対比10%を超過したか、もしくは10%に非常に近い水準まで拡大し、信頼回復のために財政赤字削減が最優先課題となったのである。

6月には他国からも財政健全化に向けた政策発表が続いた。ドイツ政府は2014年までに財政赤字を計800億ユーロ削減する方針を決定。フランスは国庫負担増に歯止めをかけるべく、年金支給開始年齢の引き上げを盛り込んだ年金改革案の検討を始めた。6月22日には5月に発足したばかりの英連立政権が歳出削減を柱とする緊急予算を発表し、財政赤字削減への着手を宣言した。

米国が特に問題視したのは、このうちドイツの財政赤字削減計画である。フランスや英国と異なり、ドイツの財政赤字は2010年もGDP比5%程度にとどまると見込まれ、経常収支は黒字を計上している。そのドイツは、世界経済の回復力が脆弱な現状で内需の活性化にまず力を入れるべきであり、財政健全化はその次の政策課題ではないかというのが米国の主張であった。

対するドイツの反論は、財政赤字の拡大を放置すれば、それは国民の将来に対する不安を高め、貯蓄率の上昇と消費の抑制を招くことになるため、財政赤字削減に取り組むことが、回り道のようでいて消費回復の近道であるというものであった。また、財政赤字拡大が続けば、それは通貨安の原因となり、インフレ圧力を高めることも懸念材料として指摘した。欧州委員会もドイツの財政赤字削減に向けた取り組みを評価し、赤字削減の先送りを奨励するような米国の提案は無責任だと批判した。

結局、G20サミットでは「成長に配慮した財政健全化を目指す」ことが合意されたが、財政赤字削減を巡る温度差は、米国と欧州の置かれている状況の違いを反映していると考えられる。その違いとは、欧州は単一通貨ユーロを共有し、財政政策にも協調が求められることや、社会保障制度が手厚く構築され、その改革(=削減)が課題といったことが挙げられる。ただ、一番根本にあるのは人口増加率の違いではないかと考えられる。米国の人口が年率1%程度で拡大しているのに対し、欧州の人口増加率は0.5%程度にとどまる。しかも欧州の人口増は主に移民純流入によるもので、それを除くと人口増加率は0.1%程度に低下する。加えて欧州では高齢化が進んでいるため、財政赤字削減に向けた取り組みが待ったなしと認識されているのである。

「人口高齢化が進行する中で、財政赤字拡大は看過できない」という事情では日本も欧州と近い立場にある。将来に対する不安が、現在の消費を抑制しているという状況が日本にもあると見受けられるため、欧州の取り組みは他人事ではない。もっとも、財政赤字削減に対する欧州の処方箋をそのまま日本に当てはめることができるかは疑問である。例えば欧州では社会保障費の削減や付加価値税(日本の消費税に相当)の引き上げが財政赤字削減の方法としてよく利用される。しかし、手厚い社会保障制度を構築し、付加価値税は20%前後が普通で、歳出がGDPの50%という欧州の状況と、日本の状況は異なっている。個別の対応策ではなく、中長期的な財政政策に財政赤字削減の目標を設定し、その目標達成のために、今できることを考える姿勢を学ぶべきであろう。

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