財政健全化は失敗に学べ

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2010年06月30日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
民主党は09年総選挙のマニフェストで、207兆円の総予算を組み替えれば子ども手当などの財源が生まれると述べた。ところが、実際には10年度総予算を215兆円に増やしてしまった。民主党の新政策は初年度の所要額が7.1兆円とされていたから、結果の総額だけみると同額の歳出が増えたようにもみえる。

しかし、与党民主党の今夏参院選マニフェストでは、「強い財政」や消費税を含む税制の抜本改革が大きな柱になっている。菅直人内閣が財政健全化を経済や社会保障と一体的に捉えている点は期待したい。6月22日に菅内閣が閣議決定した「財政運営戦略」には様々なことが書いてある。

これまでも日本は財政健全化に取り組んできた。橋本龍太郎内閣のときの「財政構造改革法」や小泉純一郎内閣での「骨太の方針06」などが代表的なものである。そうであるなら、今回こそ、歴史からの教訓をいかすべきである。少なくとも以下の3点において政策の構造や体系性が不十分だったことは、過去の財政改革が失敗した一因だった。

第一に、財政健全化よりも先に、社会保障システムの再構築が急がれる。財政運営戦略には社会保障の給付強化など、歳出増額の意向が現れている。その中身が何であるのか、それに見合う国民負担増が可能であるのか、まだまだ不透明だ。菅内閣の経済政策は現金ではなく現物の給付を志向しているようだが、年金(現金)は何度かの改革で一定の目処がついたが、医療・介護(現物)の財政問題は未解決である。

第二に、国と地方の間の財政関係を整理する必要がある。財政運営戦略は、地方財政の安定的運営を特別扱いしており、「国は地方に負担を転嫁するような施策は行わない」「地方の一般財源は10年度の水準を3年間は下回らない」といった趣旨のことを述べている。財政の無駄は国だけでなく、地方にも多いだろう。国だけに集中した財政改革は失敗するリスクが大きい。

第三は景気変動に対する柔軟性の問題である。財政運営戦略によれば、経済の重大な危機などで健全化目標の達成が著しく困難な場合は、閣議決定を経て達成時期の変更などの適切な措置をとるという。だが、そもそも、重大な危機であるか否かの認定には政治的恣意が強く働く。財政健全化を正当に延期する条項の発動基準は、できる限り客観的に設定しておくのが望ましい。

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鈴木 準
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