単に規制緩和するだけでよいのか
2010年06月21日
菅新政権では「第三の道」と呼ばれる増税による有望分野への財政支出で、財政再建と経済成長の両立を目指している。具体的には介護や医療、環境・エネルギー、観光といった分野への支出が見込まれているが、そもそも情報が分散化・高度化している現代において、果たして政府が有望分野を見つける能力があるのかどうかは疑問が残る。
財源が不足する中で経済成長を高めるためには、出来るだけ情報優位にある民間の力を活かすことが必要ではないか。そして、民間が自らの情報に基づいてリスクを取りながら自由な活動を行うには、規制緩和が必要と考えられる。しかし、単に規制を緩和することにはリスクを伴う可能性もある。規制の存在意義とは何だろうか。
規制の本来的な役割は、市場の失敗を補正することである。市場取引が完全に機能するには、例えば取引されるモノやサービスの質が売り手と買い手との間でよく知られている必要がある。汎用品のように誰もがその中身を良く知っている場合、売り手が一方的に情報で優位に立つことは難しいので、買い手との公正な競争で価格や取引量が決まる。
しかし、専門性の高いモノやサービスは供給側が情報優位にあるため、単純に市場取引すれば、情報優位にある売り手が自分に有利なように取引を決める余地が生まれる。すると、情報劣位にある買い手は不本意な取引を強いられることになるので、市場は縮小し、結果的にどの当事者も満足のいく取引が出来なくなる。こうした非効率性を改善するには、規制を課すことで情報優位にある売り手へ積極的な情報開示をさせたりその行動を制約させることで、情報劣位にある買い手を市場に惹き付けないといけない(もちろん、規制が単なる保護目的の場合もあるが)。
つまり、規制緩和の条件の一つに、売り手と買い手の情報格差を埋めることが考えられる。もっとも、情報格差による非効率性は長い目で見ると売り手にとっても不利なため、民間レベルで自主規制が生まれる余地も大きい。最近では人々の情報収集能力がインターネットなどの利用もあって格段に向上し、さらには売り手側も様々な分野で積極的な情報開示を行っているため、両者の自発的な活動により情報格差は縮小しつつある。
もしそうした自発的な情報格差の縮小が難しい場合は、政府が何らかの形で情報優位にある売り手の行動をモニタリングし、彼らが情報劣位の者から利益を搾取することのないように監視することも一案である。それも困難ならば、やはり規制も選択肢に入ってくる。
したがって、民間のイノベーションを促して自由な経済活動を確保するためには、単に規制を緩和するだけでなく、売り手と買い手との情報格差を埋める努力や売り手の行動をモニタリングするというように、規制緩和で生じ得るリスク軽減措置を同時に担保していく必要もあると考える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
経済調査部
主任研究員 溝端 幹雄
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米国:AIブームの裏側で高まる金融リスク
ITセクターの収益懸念が揺らすプライベート・クレジット市場
2026年03月13日
-
大和のクリプトナビ No.8 東証が暗号資産トレジャリー企業への対応を検討か
トレジャリー企業を巡る直近の動向と海外制度の整理
2026年03月12日
-
東証、オーナー企業の実態開示を拡充へ
資本関係、人的関係、経営関与の有無
2026年03月12日
-
医療等情報の一次利用を広げるには
広範な閲覧・迅速な共有・義務化へ移行で拡大する豪州の一次利用
2026年03月12日
-
続・アクティビスト投資家進化論
~今後アクティビスト投資家に求められる「価値創造力」~
2026年03月13日

