ヨーロッパの銀行の苦悩

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2010年06月17日

  • 木村 浩一
2008年のリーマン・ショックの教訓の1つは、メガ・バンクが横並びで資産規模やデリバティブ取引残高を拡大させ、大手銀行の資産規模が大きくなりすぎ、一旦その経営が変調をきたすと、銀行の経営破綻が国際的に連鎖し、金融システムにとどまらず、国民生活に深刻な打撃を与えるということである。

また、ショック後も銀行の負の資産保有がディスクローズされず長期化すると、銀行の貸出しを長期間にわたり抑制し、日本の「失われた10年」のように、民間部門に資金がいきわたらず、経済の活力を奪っていく。経済を早期に建て直すには、不良資産を開示し、迅速に処理していく必要がある。

しかし、現実には、例えば、アメリカがAIGを救済し、銀行が本来損失処理すべきAIGへの債権を国が肩代わりするなど、銀行などが抱え込んでいた不良債権を国債の大量発行により、政府や中央銀行への負担に先送りしただけにすぎない。その結果、先進諸国は、軒並み国債の大量発行により財政が悪化した。

その中で、国債保有が少ないアメリカの大手行と比べ、ヨーロッパの大手銀行は、大量にヨーロッパ諸国の国債を保有し、ストレス・テストの結果も公表されていない。経済の悪化によりヨーロッパ経済の不振が長引けば、ヨーロッパ諸国の財政再建は遅れ、信用力の低下により国債価格の低下を引き起こす。一方、超低金利下の中で、景気が回復し、民間部門の資金需要が大幅に回復すると、金利が上昇し、保有国債の値崩れを起こす。ギリシャ問題の本質は、ヨーロッパの銀行の経営問題である。

その意味で、肥大化した銀行の資産規模を抑制しようとするボルカー・ルールの採用は不可欠だろう。そして、国債大量保有という爆弾は、ヨーロッパの銀行だけの問題ではない。日本国債を大量に保有する邦銀も、いずれ同じ問題に直面する。

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