「ロンドン報告 2010年初夏」 英国とギリシャ
2010年05月27日
5月6日に行われた英国の総選挙では野党保守党が過半数割れながら第一党となり、自由民主党との協議を何とかまとめて連立政権を発足させた。ブレア以来13年続いた労働党政権の終焉である。
欧州では昨年末以来、ギリシャをはじめとするPIIGSの財政赤字、そのリファイナンスの可否が市場の頭痛の種であり、特に4月以降、混乱の度が著しく増している。ドイツなどのお国の事情がEUの支援策の具体化を遅らせたこと、欧州統計局による2009年財政赤字の上方(赤字拡大)修正、主要格付け機関による相次ぐ格下げなどに加えて、市場の混乱に拍車をかけたのがギリシャにおける反政府デモの頻発だった。国民の多くが痛みを受け入れようとしない限り、政府がどのような財政緊縮策を提示し、それをEUが承認したところで絵に描いた餅でしかない。緊縮策の頓挫とデフォルトのリスクを市場参加者が意識せざるを得ないのは当然であった。
巨額の財政赤字のマネージが最大の政策課題になっているのは英国も同じである。欧州委員会が5月に発表した欧州経済見通しによれば、一般政府財政赤字のGDP比は2009年実績がギリシャの13.6%に対して英国は11.5%、2010年にはそれぞれ9.3%、12.0%になるという。2010年はEU加盟27か国中、英国が最悪の財政赤字を抱えると予想されている。
当然、厳しい財政緊縮は英国においても不可避である。耳障りの悪い政策を選挙戦の中で声高に叫ぶ政党はいないから、今までは何となくぼかされて来たが、選挙が終わった今、緊縮策が具体化に向けて動き出す。そして、選挙民は今までぼかされてきたことも、厳しい緊縮策が待ち構えていることも了解している。そうした中で、保守党が第一党になったことの意味は、再考されてしかるべきだろう。
というのも、元来小さな政府を志向し、3党の中で唯一、政権獲得直後から財政緊縮に動き出すことを公約していたのは保守党であり、同政権下での財政政策が、より選挙民に痛みを強いるであろうことは容易に想像可能であったからである。
この点、Financial Times/Harrisによる世論調査が、興味深い示唆を与えてくれる(5月17日付けFinancial Times)。これは英独仏伊西の欧州5カ国と米国を対象にしたものであり、紙面で紹介されている調査結果は二つ。一つは「今後10年間で自国政府がデフォルトする可能性があるか」であり、もうひとつが「銀行への特別税に賛成するか」である。
前者の質問に対し、自国の財政に最も悲観的だったのはフランスだった(「そう思う」という答えが53%)。そして米国(46%)、イタリア(40%)、スペイン(35%)と続き、英国は33%とドイツ(28%)に次いで、最も自国の財政破綻の可能性には楽観的に見ている。先にも触れたが、フローの財政収支については、欧州主要国で英国は最悪の状況にある。それでもデフォルトを懸念するものが少数派なのは、財政の建て直しについて、英国民が楽観していることを示していよう。しかし当たり前だが、財政立て直しは当の英国民が痛みを受け入れない限り実現しないのである。
もうひとつの銀行税についても触れておこう。銀行税の導入への賛成が一番多いのはドイツである。ただ、欧州5カ国はいずれも賛成票が60%台であり、大きな差はない。英国は61%であり、欧州の中では賛成票が最も少ないが、これはシティを舞台とした金融業の重みが、欧州の中では圧倒的であることが主因である。実際、グローバル不況に見舞われるまでの10年間、英国は金融業を主たる牽引役とした成長路線にあった。したがって、61%という数値については、欧州の中での「低さ」ではなく、米国(44%)と比較した「高さ」として評価されるべきである。英国では従前の成長パターンへの回帰はない、あるいは不要という国民的なコンセンサスができているかに見受けられる。
保守党は選挙で勝利したものの、選挙キャンペーンで訴えた「Change」はどちらかといえば失笑の的でしかなかった。それにもかかわらず、英国民はさほど肩肘を張ることなく、来るべき変化を受け入れようとしているように見える。今後の成長路線など、見えてこない部分が多いことは確かだが、ギリシャのような混乱からはかなりの距離があるといってよいだろう。
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