アジア市場の見方

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2010年05月25日

  • 由井濱 宏一
ギリシャ問題の深刻化を主因に5月入りとともに急落したアジア市場だが、以下の様な理由からポジティブな見方もできよう。

まず、ギリシャ問題の行方で、報道にもあるように、既にギリシャ救済のための枠組み(IMFの緊急融資、EUとIMFの緊急融資制度創設、ECBによる国債買い入れ)は出来上がっており、一部実施に移されている。過去、97年のアジア通貨危機では韓国、インドネシアへのIMF融資決定後ほどなく株価は反発した経緯がある。ギリシャの場合5月9日にIMF緊急融資が正式決定となったが、これから市場心理は好転に向かう可能性は高い。外国人投資家のリスク許容度の高まりを通じてアジア市場にもプラスの影響を及ぼそう。

2点目はアジア地域のファンダメンタルズは相対的に強固である点。アジアの財政赤字規模(対GDP)を09年時点で比較すると、日本を除き比較的低水準にある一方、外需の見通しは悪くない。米国からの需要は回復途上にあり、アジア主要国の域内輸出比率も50%を超えている状況では、ユーロ安進展による外需へのネガティブインパクトは限定的だろう。外需の好調な設備投資需要を引き続き押し上げ、失業率の低下とも相俟って内需全体の活性化にも寄与していくとみられる。失業率は最近の企業サイドの雇用意欲の回復を反映してアジア主要地域で低下を続けており、シンガポールなどは金融危機前の水準近辺にまで低下してきた。

3点目は株式バリュエーション面からみた評価である。イールドスプレッド(益回り-長期債利回り)は4月末から急速に上昇に向かっており、アジア主要市場でいずれも過去10年間の平均水準から上方に乖離してきた。市場別では香港や台湾で、レンジの上限(平均+1標準偏差)を上回ってきており、割安とも見られる水準にまで上昇した。世界的なリスク回避の動きから確定利付き証券が買われ、利回りが低下したことに加え予想EPSは順調に拡大、益回りが上昇したためである。株式に対するリスクプレミアムは国際金融危機前後の期間以降では最大となっており、悲観的な見方が広がっている。上述したようにファンダメンタルズの堅調さからアジアの企業業績に対する強気の見方が急変するとも考えにくく、アジア株が全体的に売られすぎと見た投資家が回帰する環境は整いつつあるのではないか。

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