技術革新によって変わる照明市場

RSS

2010年05月19日

  • 大澤 秀一
照明市場は世界で約10兆円(施工費を除く)とされ、様々な製品技術によって多くの製品が流通している。

照明製品の技術革新を振り返ると、「気体」のガス灯や蛍光灯、放電ランプや「液体」の油ランプなどから「固体」の発光ダイオード(LED)を目指した“固体化”の歴史であったといえる。

固体化を目指した理由は、燃料や発光源の密度を高めて性能と効率を高め、可搬性と安全性・信頼性を確保するためであった。また、この技術革新が用途に恵まれ市場化にむすびついた幸運も、固体化技術を評価する上で重要な点である。

半導体の製造技術を応用した青色LEDが発明されたのが1993年。それから照明に適した白色LEDにするのに更に3年かかった。2000年ころには携帯電話のカラー液晶のバックライトに本格採用され市場が急速に立ち上がった。開発企業は利益を独占し、潤沢な研究開発投資でさらなる性能の向上と低価格を実現していく。2010年からは大手のテレビメーカーによる液晶バックライトへの本格採用が始まった。参入企業も増えたが、市場規模(モジュールベース)は百億米ドルの大台に乗ると予測されている。

今後は、より規模の大きな照明市場への導入が期待されている。導入シナリオの根拠は、高い環境性能である。各国は低炭素社会の構築に向けて省エネ機器の導入に積極的だ。今後、景気が回復するに伴い公共施設や商業施設を中心に採用が進み、2015年頃には一般家庭にも普及すると予測されている。

技術革新が固体化で一段落した今、量産技術の開発と設備投資の課題は未だ残されているが、今後はマーケティングがより重要な経営課題になってくる。

先行者として有利なのは、既存の照明産業を支えている企業群だ。照明器具の設計力と販路を武器にシェア確保を狙う。LEDの安定確保を目的にデバイスの内製化も始めており、サプライチェーンの垂直統合を進めている。

一方、LEDはランプより長寿命なので、従来の照明ビジネスで重要とされてきた流通在庫の管理能力は大きな意味を持たなくなる。新規参入者であっても、画期的な製品戦略や価格戦略が実行できれば収益機会は十分にある。セット品の開発もできる半導体企業や、安価な海外部品を調達できるファブレス企業などの活躍が期待される。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。