先進国の「後始末」と新興国の「歪み」に揺れる米国株

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2010年05月13日

  • 成瀬 順也
米国株に一つの節目が到来したようだ。NYダウは4月26日、ナスダックとS&P500は4月23日をピークとして5月7日まで、それぞれ7.4%、10.5%、8.7%の下落を記録。5月6日にはNYダウが一時、前日比998ドル安を記録した。NYダウは年初来マイナス圏に突入。4ヶ月積み上げてきた上昇幅が、年初来高値から2週間弱で吹き飛んでしまった。5月6日の急落については、誤発注やプログラム取引などにより増幅された結果とも指摘されている。しかし、本質的には、先進国が未だ金融危機の後始末に追われる一方、新興国には早くも急回復の歪みが現れたことが、米国株下落の要因だろう。

「後始末」の最たるはギリシャ問題。支援する側の主役たるべきドイツの煮え切らない態度と、支援される側のギリシャ国民の不満の間隙をマーケットから突かれている。支援が遅々として進まぬ間に、マーケットの不安はイタリア、スペイン、ポルトガルなど南欧全体に広がってしまった。米国内では、ゴールドマン・サックス問題。同社の件は個別材料だが、いかなる結論になったとしても、金融規制改革を厳しい方向に向ける一因とはなろう。

一方、「歪み」の最たるは、インド、ブラジル、中国の金融引締め。インドは3月、4月に連続利上げを実施、ブラジルも4月28日に利上げを開始した。ともにインフレの加速が懸念されており、利上げ継続が予想される。中国は利上げにこそ踏み切っていないものの、預金準備率引き上げ、銀行融資抑制、不動産価格抑制など、金融引締めは鮮明。注目の人民元切り上げが行なわれれば、これも引締め効果を持つこととなろう。

米国株の上昇が続くためには、その前に、先進国の「後始末」と新興国の「歪み」を株価が織込み尽くす必要があると見ている。前述の株価急落は、これらを織込み尽くす前に見切り発車しようとした株式市場に対し、何らかの「見えざる手」による警告が下ったのかもしれない。次に来る米国株上昇トレンドは、今秋と予想している2010年の安値を基点としたものになるだろう。2010年秋口まで、NYダウは昨年末の10,500ドル辺りを中心に、±1,000ドルの9,500~11,500ドル程度のボックス圏での展開を想定。今回の下落は、あくまでボックスの中心に戻っただけのことである。

ただし、今秋には大きな下振れ懸念が二つ挙げられる。利上げ懸念と中間選挙である。即刻利上げを主張するFOMCメンバーの登場や、オバマ政権の先行きに対する不確定要因が株式市場を混乱させることになるかもしれない。

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