公的年金積立金運用への提言

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2010年05月11日

  • 森 祐司
国民年金・厚生年金の積立金の管理運用を担当する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を巡って、組織形態のあり方やガバナンスなどの議論が高まってきている。そもそもGPIFの組織形態のあり方を決める最重要な前提は年金制度(現政権が掲げる改正制度案の細部は全く詳らかではないが)によって求められる運用目標と、その目標達成のために策定する運用方針である。運用方針次第で運用組織のあり方は変わりうるからである。

このため、制度改正案が明らかになるのを待ってGPIFのあり方も本格的に議論するのが筋ではあるが、それまで拱手傍観してよいわけではなかろう。GPIFの運用組織については、現状でも制度改正後でも通じる改善事項が考えられるからである。

それは以下のようになる。現在、わが国の年金給付は拠出よりも多くなるステージに入ってきている。そのために(制度改正があろうとなかろうと、給付水準の大幅引き下げなどがない限り)GPIFは積立金の取り崩しを開始せざるを得ず、そのための給付資金を確保する部分では安定した運用が求められている。この給付資金確保を考えると、一定の前提の下で算出した何年間分かの給付債務(老年層のための債務)のための資産を「給付資金確保部分」として切り出すと、それは安定性を重視した運用方法を採用することが最適となる。例としては満期まで国内債券を保有するバイ・アンド・ホールド型(B&H型)の運用が最適なポートフォオの候補となりえよう。そして残る部分はより長期的な債務(現役・若年層のための債務)となるため、適度にリスクを取りながらより高いリターンを狙う「収益追求部分」だと位置付けられる (※1)

GPIFの組織形態の議論の際に分割案はよく浮上するが、ただ単に分割するのでは意味がなく、上で示したような2つポートフォリオの目的と運用方法に合致した分割案が合理的だと考える。そして、組織体制は、「給付資金確保部分」の運用は現行のGPIFでB&H型で行うことで十分であるし、「収益追求部分」の運用は、GPIF以外の組織、これは運用専門の子会社を設立するなどして市場運用させることが適当だと考える。手っ取り早い方法はいずれかの投資顧問会社を買収することかもしれない。市場運用を行う運用子会社は市中の民間運用機関と同じ経営・運用を行い、GPIFは株主として厳格な企業統治を行うことに徹する。

このスキームの利点は、(1)GPIFは現在でも委託先運用機関管理を行っており、「運用機関管理の専門家」としての立場を維持することは、運用機関そのものになって運用パフォーマンス競争に飛び込むよりもはるかにアプローチしやすいと考えられること、(2)運用子会社という別組織を作ることで、運用報酬に連動するような人事・評価・報酬制度の導入が容易となり、人材の採用・解雇も適宜行えるようになること、(3)海外の先進的な年金基金のように運用のための海外拠点の開設なども運用子会社方式で行うことでより機動的な行動が可能となること、(4)単純な分割案では天下り先を増やしただけという批判に耐えられないが、この方式であれば独法を増やすわけではないこと、(5)運用子会社が非効率な運用組織となれば、運用子会社・GPIF双方にデメリットとなるために、効率性を高めるインセンティブを双方が持つようになること、である。ただし、このスキームを機能させるためには、たとえGPIFの運用子会社だからといって、民間の運用機関と区別せず、あるいはそれ以上の透明性と説明責任を厳しく求めるようにすることが必須条件である。投資行動や経営者報酬などを含めた経営内容はすべて国民に公開し、批判を受けることを厭わないことは絶対的な条件である。

※当コラムの見解は筆者の個人的見解を述べたもので、筆者の所属する組織の統一的見解ではありません。

(※1)この公的年金ポートフォリオを分割するアイデアについては大和ファンド・コンサルティングの玉之内氏から大いに示唆するものがあった。もちろん、本稿の見解の責はすべて筆者に属するのは言うまでもない。

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