「双方向性」サービスとしての電子書籍への期待

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2010年04月28日

  • 高野 剛

アマゾンの電子ブックリーダー「Kindle」の登場や、アップルのタブレットPC「iPad」の発表などによって(表1)、電子書籍の本格的な普及が期待されている。書籍が電子化されることによって、書籍の購入時には、書店での在庫の有無を気にすることなくいつでも購入でき、購入後も本棚などの保管場所を心配する必要がなくなる。書籍の重さを気にせず何冊でも持ち運べる。電子書籍のコンテンツが増加すれば、今後、多くの紙媒体に取って代わる可能性がある。

現在の電子書籍ビジネスでは、電子書籍のターゲットとして、小説、ビジネス書、雑誌などの一般書籍に加え、学校教育への電子書籍導入のための教科書などが挙げられている(※1)。また、電子書籍用の端末は「目に優しい表示」「ページをめくるような感覚」などの新たなユーザーインターフェースを搭載し、パソコン上でインターネットの画面を閲覧するときの感覚とは異なる「読書する感覚」を利用者に提供する。

このように電子書籍の普及が現実味を帯びてきた今、電子書籍がもたらす「新しい書籍」のありかたについて考えてみたい。

パソコンやインターネットの普及によって得られた、紙媒体に対する電子化のメリットとしては、ニュースサイトやポータルサイトがもつ「速報性」や、オンラインの辞書サービスや百科事典サービス(※2)がもつ「検索性」とともに、eラーニングなどが提供する「双方向性」が挙げられる。

紙媒体としての学習参考書と比較して、パソコン上でのeラーニングは、利用者が演習問題を解くと即座に採点結果を出し、答案解説や利用者の理解度を表示するなどのサービスを提供する。すなわち、eラーニングは、単に利用者に文章を提供するだけではなく、利用者の操作に対して利用者に有用な/固有な情報を提供するという「双方向性」を提供している。「双方向性」によって、eラーニングは学習に対する利用者のハードルを低くし、学習効率を向上させる。一方、eラーニングはウェブを基本とした画面であることが多く、「読みやすさ」の点では紙媒体に軍配が上がる。

そこで、今後の電子書籍に対して筆者が期待するのは、紙媒体のような「読みやすさ」と電子化のメリットである「双方向性」の双方を兼ね備えた書籍の登場である。それも、従来のウェブページをリンクするという意味ではない「書籍の新たな機能」の形で提示されるとよい。「双方向性」をもつ教科書や学習参考書であれば、演習問題にとどまらず、実際の授業のスタイルまで変革できるようなアイデアが、電子書籍から生まれるかもしれない。

電子書籍の未来を想像することは楽しいが、まずは電子書籍の本格的な普及を期待したい。その後、紙媒体だけでは提供できない「電子書籍ならではのサービス」が提供されればと願っている。

表1 国内で購入可能(予定)な主要電子書籍端末
表1 国内で購入可能(予定)な主要電子書籍端末

(※1)「日本でタブレット型PCが普及する市場は?」情報技術研究所 八木昭彦

(※2)例えば「スぺースアルク」や「ウィキペディア」など。

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