アジアのインフラ投資に日本の強みを総動員する
2010年04月15日
鳩山政権の「新成長戦略」が6月を目途にまとめられる。中でも肝となるのは、“成長”の期待感が膨らむ「アジア経済戦略」に他ならない。しかしながら、アジアはあくまで外国であり、そこでの需要拡大の恩恵を享受しようという目標を国家戦略に堂々と掲げるからには、アジア諸国の国家戦略に合致するものでなければならないだろう。双方の利害が合致し、かつ“日本独自の強み”が発揮できた場合に、初めて長期的な関係が構築され、日本の成長につながることになるのだ。単に貿易財の販売を促進するような戦略では長期的な関係は構築できない。
アジア地域が依然発展途上にある現在、日本が目を向けるべきは急拡大を続ける資本財投資やインフラ投資である。とくにインフラ建設が成長に追いついていないことは以前より指摘されているところであり、アジア開銀によれば2010年から2020年までの間にアジア地域で約8兆ドル(約750兆円)のインフラ投資が必要と試算している。また別の予測によれば2005年から2030年までにアジア太平洋地域で15.8兆ドル(約1480兆円)の投資が必要だという。この分野こそ長期的なWin-Winの関係を築けるのではないだろうか。
では、アジアのインフラ投資と日本の成長戦略を合致させるにはどうしたらよいか。日本は“ヒト”“モノ”“カネ”を総動員してアジアと一体化しながら取り組んでいく必要があるだろう。本来は政府の戦略などに頼らずに、民間が自ら現地化しながら進めていくべきところであろうが、そうなっていないのなら、政府の後押しが効果的に働く可能性に期待したい。
日本の最大の強みは“モノ”=“技術力”と考える向きが多く、例えば原子力発電プラントや新幹線の売り込みに国を挙げて注力していることが好例である。一方で、水道事業の運営などの分野で地方自治体のノウハウを輸出しようとする動きがあり、これは“モノ”というより“ヒト”=“経験”と言えるのではないだろうか。アジア諸国に対して日本の戦後高度成長期の経験を適用できるアイデアは他にもありそうだが、これからは“ヒト”を積極的に送り込むような努力が求められよう。
そして同時に積極化したいのは“カネ”の投入である。何も政府のODAを増やすことを求めているのではない。必要なのは日本の民間のカネをアジアに導くことである。日本の強みは技術力や経験だけではなく、1400兆円にのぼる個人金融資産と認識すべきである。確かにそれをインフラ投資(いわゆる初期のグリーンフィールド投資)にそのまま投じるのはリスクが高いかもしれないが、官民ファンドのような形で一定のリスク負担に公的サポートを与える、といった工夫を行えば、自ずと投資資金が向かうのではないだろうか。世界の投資家は、この“インフラ投資”に対する注目を高めている。キャッシュフローを生む段階になれば、ミドルリスク・ミドルリターンの有望な投資先になるからだ。日本も、こうした海外へのインフラ投資を通じた国民総所得(GNI)の向上を成長戦略に盛り込んだらどうだろうか。
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