中南米の米国離れと多極化

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2010年04月12日

  • 長谷川 永遠子
「哀れなるメキシコ、神からは遠すぎ、アメリカからは近すぎる」これは19世紀後半の米国による産業支配を嘆いた言葉だが、「メキシコ」を「中南米」に置き換えてもさほど違和感は生じない。東西冷戦や同時多発テロといった米国の事情に、中南米は嫌が応にも巻き込まれてきた。近年、中南米で左派政権が多数誕生したのも、テロ事件以降米国の中南米に対する関心が低下したことと無縁ではなかろう。

数ある左派政権の中でも最も活発な動きを見せているのはベネズエラのチャベス大統領である。チャベスは石油収入を自己の政策実現の原資とする典型的なエネルギー外交を繰り広げ、反米色の強いキューバ、エクアドル、ボリビア、ニカラグアなどを集めてALBA(米州ボリバル代替統合)を結成した。反米政策の一環としてドル離れも模索しており、ALBA銀行の設立が決まった他、今年から主要5カ国間の貿易決済で共通計算単位スクレが導入されている。

一方、米国離れを模索するのはブラジルも同じだ。南米全12カ国を網羅したUNASUR(南米共同体)や、米州からあえて米国とカナダを排除したラテンアメリカ・カリブ共同体(仮称)の結成を主導し、北の大国=米国に揺さぶりをかけている。ただし、ブラジルはベネズエラのような強硬姿勢はとらずに、対米交渉力の強化と自由貿易や経済協力の実利をとろうとしているようだ。UNASURとラテンアメリカ・カリブ共同体は経済統合より政治志向を優先したところに特徴がある。ベネスエラやキューバの動きを制しつつ、今後中南米としての統合を進めていけるのか、ブラジルの手腕が試されている。

金融危機で手一杯の米国は、こうした中南米の統合の動きにも一定の理解を示している。危機前から多極化が進んでいた国際社会だが、中南米もようやくその一極を構成する段階に入ったようだ。

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