ユーロ反発の条件

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2010年04月06日

  • 亀岡 裕次
ユーロが売られた直接的な原因は、ギリシャなどの信用不安にある。他に手段がなくなった場合の最終手段として、ユーロ圏内の二国間融資とIMF融資の協調融資を可能にすることで3月にEU首脳が合意したが、ポルトガル国債が格下げされるなど信用問題はギリシャ以外にも波及しており、ユーロの本格的な反発にはつながっていない。他国の支援でデフォルト・リスクが小さくなっても、財政悪化問題が小さくならない限り、ユーロ圏には投資しにくいだろう。

ユーロが弱い理由には、ユーロ圏内の一部の国の信認が低下し、信用スプレッドが拡大したことだけでなく、ユーロ圏の期待成長率が低く、信用リスクの低い独・仏などの金利が米国などに比べ低下していることもある。経済成長率が低いからこそ、財政赤字は縮小しにくいし、信用リスクも低下しにくい。また、経済成長率が低いからこそ、インフレ率は上昇しにくいし、金利先高観も生まれにくい。最近、ドルLIBOR(ロンドン銀行間金利)が上昇し始めたのに対し、ユーロLIBORは低下している。

ユーロ圏全体の財政赤字の対GDP比率は日・米・英などに比べて低いものの、経済成長率が低い。ギリシャ、アイルランド、スペインなどは財政赤字比率が高いうえに、経済成長率がマイナスの見込みであり、財政赤字の縮小が難しいとの見方から信用不安が広がりやすい。しかも、経常取引の収支が赤字で資本取引を海外資本の流入に依存していることが、財政赤字のファイナンス懸念を大きくしている。ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどは、経常赤字の対GDP比率が高い。双子の赤字が大きい国々がユーロ圏内に存在することが、通貨ユーロの価値に悪影響を及ぼしている面もあろう。

では、なぜユーロ圏の経済成長率は総じて低いのだろうか。これには、通貨ユーロの水準が高かったことが大きく影響している。ユーロが対ドルで下落すると、やや遅れてユーロ圏の経済成長率は対米国で上昇し、ユーロが対ドルで上昇すると、やや遅れてユーロ圏の経済成長率は対米国で低下する傾向がある。両者のタイムラグは1~2四半期程度である。09年12月にユーロが下落に転じたので、10年1-3月期か、4-6月期まではユーロ圏の成長率が対米国で低下し、その後は上昇する可能性が高い。ただし、ユーロ圏の成長率が米国並みになるか、逆転しないと、ユーロが対ドルで上昇に転じにくい傾向もある。

各国の相対的な物価変動を調整した実質実効為替レートをみる限り、ユーロの水準はまだ高く、ユーロ圏の成長率を急回復させるほどにユーロ安が進んだとは言いがたい。ユーロ安効果が表れ始めてユーロ圏の成長期待が十分に高まるようにならないと、ギリシャなどの信用不安も小さくならないし、ユーロ相場は反発しにくい。ユーロ圏の期待成長率の上昇と金利先高観の台頭には時間がかかり、7-9月期までにユーロは1.25~1.30ドル程度へと下落する可能性があるだろう。

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