企業年金と個人金融資産の関係

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2010年01月21日

  • 鈴江 正明
注目を浴びているJALであるが、会社更生法というハードランディングによって経営再建が図られ、企業年金の減額問題では、現役社員、退職者それぞれの3分の2以上が会社削減案に同意し、現役社員は約5割、退職者は約3割の減額で落ち着きそうである。これらは、3000億円を超える年金債務の積立不足が招いた大きな代償とも言える。では、JALに限らず、ここ最近多くの企業年金がなぜ積立不足に陥ったかを、資産、負債の両面からみていきたい。

まず、資産面でいうと、運用収益の急速な悪化による年金資産の減少である。企業年金連合会によれば、確定給付型企業年金の運用実績は2007年度が▲10.6%、2008年度が▲17.8%と、2年連続2桁のマイナス運用であった。サブプライムローンの破綻、リーマンショックなどを契機とした世界同時株安や円高によるものである。

次に、負債面でいうと、退職給付債務の増大である。退職給付債務とは、退職金制度に基づき従業員に将来支払われる総額のうち認識時点までに発生していると認められる部分を現在価値に割り引いた金額で、計算時に使用される割引率は長期国債利回り等を参考に決定される。この割引率が低いレートで決定されると退職給付債務は増加し、逆に高いレートで決定されると減少することになる。ここに根源的な問題が隠れている。

大幅な財政赤字、国内総生産を遥かに凌ぐ国債発行残高といった環境下、長期国債利回りは低水準で安定している。約1400兆円の個人金融資産の半分以上が、健康、介護、年金などの老後に対する不安から銀行預金にまわり、間接的に金利上昇を抑えているからである。つまり、国民の生活の安定と福祉の向上を目的とし、老後に対する不安を解消するために設立された企業年金は、老後に対する不安からリスクをとれない個人金融資産に、自分で自分の首を絞められているという全く笑えない話になっているのである。

企業年金が本来の目的を達成するためには、この縮み上がった個人金融資産をまず解きほぐす努力をしなければならない。老後の不安を一掃するような未来図を政府に描いてもらうことはいうまでもないが、我々自身もお金の問題に正面から取り組む必要があるのではなかろうか、品がないと言っている場合でない。

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