社外役員の独立性—不満はあるが否決も困る

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2010年01月19日

2009年暮れに東京証券取引所は規則改正を行い、上場会社に対して「独立役員」を1名以上確保することを義務付け、これを届出るとともにコーポレート・ガバナンス報告書に記載することを求めた。社外監査役や社外取締役は、すでに選任されているが、単なる「社外」ではなく、「独立」性を必須としたところに意義がある。経営者や支配的株主から影響を受けない独立役員を置くことで一般株主の利益を守ろうとしている。

社外性要件を独立性要件に強化するべきとの要望は、一部の機関投資家が要望していた。機関投資家は、通常、支配的株主(親会社など)になることは無く、支配的株主の専横を防止する仕組みとして、独立役員の選任を求めてきた。今回の規則改正に対して、1名では不十分であるとか、独立「役員(監査役を含む)」ではなく「独立取締役」とするべきであるとか、独立性の規定が緩すぎるなど、機関投資家からの不満も聞こえるが、まずは一歩前進という前向きの評価を与えていいのではないだろうか。

ところで、「社外性」ではなく「独立性」を求めるとしたときに、株主総会の役員選任議案に独立性に疑義のある社外役員候補者がいた場合どのような判断をすべきであろうか。独立性が認められないのであれば、選任に反対するという考え方もある。しかし、不十分な独立性であっても社外役員がいること自体は望ましいとするなら原則的に賛成という対応もあり得る。実際上は、こうした両極端の対応ではなく、到底独立性があるとは言えないような場合を類型化して反対という判断をする場合が多いように思える。特に一般株主の利益が害されやすい状況、つまり支配的株主が存在する場合に限って「独立性」を厳しく吟味するという立場もある。たとえば親会社がある場合、子会社の経営者は親会社の意向のみによって実質的に選任され得るため、一般株主の利益を害する経営が実施される恐れが強いので一般株主を守るべき独立取締役が必要になると考えるのであれば、独立性の無い社外取締役候補者に反対票を投じるべきということになる。

このように、独立性の不十分な社外役員候補者に株主が反対することは珍しくないのであるが、ではその選任議案の否決を望んでいるかといえばそうでもないようなのだ。上場会社のおよそ半分が社外取締役を選任しているとはいえ、わずかな委員会設置会社を除けば会社法上は選任しなくとも問題は無い。会社側が社外取締役に期待する株主の声に応えて選任しているのである。そうした中で、社外取締役選任議案を否決することは、自分で出した要求を自分で否定するようなものだ。多くの会社では社外取締役の選任自体が必須であったわけではないのだから、否決されれば社外取締役がいなくなるというだけの話だ。株主にとって100%満足のいく社外取締役ではないにしても、いないよりはずっといいと考えているはずだ。親子会社での社外取締役選任議案に限定して、独立性を吟味するという対応にしても、もともと親会社が賛成している以上否決されようが無い状況で反対するのであるから、議案の成否という点に限っていえば意味のある投票ではない。

しかし、反対票がまったく無意味だということではない。社外役員候補者に多くの反対票がでたとすれば、それは株主がより高度の独立性を備えた社外役員を望んでいるというメッセージだ。社外役員候補に反対票が多ければ、独立性に不安を感じる機関投資家が少なくないということになろう。反対票の多寡は、株主の期待を汲み取る指標として役立てることができるのである。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕