国進民退

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2010年01月14日

  • 肖 敏捷
09年12月、中国国家統計局は第二回経済センサス(経済普査)の主要指標を公表した。これによると、2008年末時点で496万社に上る法人企業数のうち、国有企業数が14.3万社、第一回経済センサス(2004年)に比べて20%減少した。これに対し、民営企業数が360万社、同81.4%増加した。しかし、この結果に基づいて、国有企業の衰退と民営企業の躍進という結論を導き出すのは早計であろう。

08年末の資産総額は、国有企業が47.7兆元、民営企業が25.7兆元、それぞれ59%と195%の増加となった。伸び率をみれば、民営企業が著しく台頭していることは確かだが、1社あたりの資産規模をみると、国有企業は衰退どころか、むしろ成長していることが見て取れる。2001年のWTO加盟を契機に、中国政府が本格的に取り組んできた「抓大放小」(大企業をつかまえ、小企業を放す)という国有企業改革が功を奏したといえる。統計上、国有企業数は14.3万社もあるが、中央政府や地方政府の支配下に置かれている「中央企業」、あるいは「重点企業」は数百社のみ。この数百社の大型国有企業は社会主義公有制の屋台骨となっているのと同時に、民営企業や外資系企業にとって脅威の存在となっている。

最近、中国では、国有企業が進み、民営企業が退くことを意味する「国進民退」という言葉が流行している。ここ数年、資源やエネルギー、航空など国有企業の独占業種を含め、民営企業への開放が進み、いわゆる「民進国退」が加速してきたが、今回のグローバル金融・経済危機を追い風に、大型国有企業が民営企業を次々と買収し、その失地を取り戻そうとしている。海外投資や事業の多角化に乗り出した大型国有企業も増えている。

08年末、景気を回復させるため、中国政府が総事業規模4兆元の景気対策を実施したことがその引き金となった。公共事業を中心とするこの景気対策から最も恩恵を受けているのは大型国有企業である。その結果、ほとんどの大型国有企業の収益がV次型回復を遂げた。また、超金融緩和や好調な株式市場が、国有企業の資金調達を従来以上に容易にしていることも一因であるとみられる。

北京や広州などの大都市では、史上最高額で土地を落札し、「地王」と呼ばれる大型国有企業が続出している。山西省では、民営企業家が出資する中小炭鉱が地元政府系企業と合併した。山東省では、民営鉄鋼会社が国有会社に買収された。事故防止や過剰設備の淘汰といった大義名分があったものの、なぜ、民営企業だけが狙い打ちされているのか、国内では大きな波紋を呼んでいる。

過去30年間続いてきた中国経済の高成長は、市場開放と競争がもたらした果実といっても過言ではない。しかし、「国進民退」がこれ以上進展すれば、今後、民間の投資意欲が萎縮しかねない。改革・開放の逆戻りに対する懸念を払拭するため、国有企業の独占分野を民間企業に開放する約束を忠実に実施する必要がある。

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