金融・公共分野のコンサルティングの現場から見た地域経済活性化の論点整理

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2009年11月30日

弊部の部署名である「金融・公共経営コンサルティング」の業務の特性上、地域経済の活性化について、クライアントと議論を重ねる機会が増えている。僭越ながら、部署名に則して説明させていただければ、「公共」分野では、(1)水道事業、交通インフラ事業等の社会インフラ整備に関するプロジェクト、(2)新規産業育成、新規需要開拓、起業家育成の政策に関するプロジェクト、(3)地方自治体の財政健全化に伴う第三セクターの再建案件、における地域経済活性化が議論の主要テーマとなっている。これらの議論における「地域経済活性化」を定義することは難しいが、弊部が金融と公共をセットに扱っていることから、金融を活用した地域経済活性化がメインの議論となる。「金融」分野では、(1)地域金融機関の経営コンサルティング案件、(2)PFI(※1) 、PPP(※2) 、民営化等の案件において、民間資金を活用した地域経済活性化の議論が中心となるケースが多い。

地域経済活性化の定義の出発点は、民間資金と財政資金による域外からの資金インプットによって成長(地域の自立的経済圏)を維持してきた地域(地方)が、これらが縮減するに従い、衰退してきたという論理である。つまり、域外からの資金インプット減少分あるいはそれ以上の分について、域内での資金インプットを活用する=域内で資金を循環(※3)させることが、ここでの地域経済活性化の意味である。特に、公的部門である社会資本インフラの整備に民間資金が投入され、域内経済資金循環を生み出すことができれば、相応の効果が期待できると考えられる。

しかし、この域内経済における資金循環を生み出すための主要課題の一つが、弊部の名前の最後の公共「経営」である。この点に関して、既に、ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の概念が、日本に導入されて久しい。NPMは、社会的便益を考慮しつつ、民間の経営の考え方を行政経営に活かして効率化し、税負担に見合う行政サービス価値の最大化(Value for Money :VFM)を図ることが目的である。この目的自体は適正であるが、その事業を運営する際に、民間の経営の考え方を完全に適用することはなく、民との役割、リスク分担が不明確な状況にあることが課題である。例えば、第三セクターの案件においても、設備更新時期が迫っているものの、当初から減価償却費を計上することによる内部留保を行っておらず、更新のための資金を税金で賄う必要が出ている等、民間では疑問を呈するような事態が、依然見受けられる。

社会的便益の検討では、将来的な当該事業にかかる財政負担が増加することが、納税者にとっては大きな問題であると考えられる。この点、先日、公共経済政策で著名な学者の方にPPPの我が国への導入についてお話を伺った際、プロジェクトの事業継続性(バイアビリティ) の維持がPPPの成功には重要であるというご説明を受けた。社会的便益がある場合には、事業の継続性の確保が困難であるケースも想定される。この乖離を埋めるために、必要な財政資金を予め確定させておくことが、納税者にとっても、民間資金の出し手にとっても重要であろう。

但し、前述した論点以上に、現実的には、民間が参入することによって、公的部門の各ステークホルダーのインセンティブの連鎖が発生することが最大の論点であることも記述しておく。

弊部としては、これらの論点を認識した上で、民間資金の円滑な活用による地域経済活性化に資するコンサルティング・サービスを提供していきたい。

(※1)Private Finance Initiativeとは公共サービスの提供に際して民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法。
(※2)Public Private Partnershipとは官と民がパートナーを組んで事業を行うという、新しい官民協力の形態。たとえば水道やガス、交通など、従来地方自治体が公営で行ってきた事業に、民間事業者が事業の計画段階から参加して、設備は官が保有したまま、設備投資や運営を民間事業者に任せる民間委託などを含む手法を指している。PFIに比べ事業の企画段階から民間事業者が参加するなど、より幅広い範囲を民間に任せる手法。
(※3)安東誠一「地方の経済学」日本経済新聞社参照


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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢