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米国電子取引規制の「見えてきた」方向性と「見えない」落としどころ

2009年11月24日

中島 尚紀

金融危機発生とオバマ政権への移行を受け、米国証券業界を監視するSEC(米国証券取引委員会)は昨年後半から規制強化をすすめている。そして、ここ数年に比べ多数の規制案が提示され、また詐欺などの違法行為が次々と発覚してきている。ある意味「野放し」に発展を続けてきた電子取引も規制強化の例外ではない。例えば、5月からのダークプール規制への言及、8月~9月にかけてのフラッシュオーダー(※1)の議論と規制案などはそれにあたる。

 そういった流れの中で、10月に入りダークプールに対する規制案がSECから提示された。これはダークプールを含めたATS(Alternative Trading System、私設取引システム)全般にわたる規制となっており、(1)気配情報の送付先限定の禁止、(2)気配値の一般公開対象となるATSの拡大、(3)約定結果の即時公開義務付け、の3点が骨子となっている。この非常に厳しい案がそのまま規制となれば、大半のダークプールは運営できないことになる。

これに加え、SECでは今後スポンサードアクセス(DMA) (※2)やコロケーション(※3)などについての規制導入も明言している。これは、「電子取引に莫大な投資をし大量に取引を行う」一部の投資家や証券会社が、個人投資家に比べ流動性へのアクセス(※4)で優位に立っている、とのSECの認識が伺える。そして、それを一掃したい意向も明確であり、ここ数年で発展した「関連するとみられる」電子取引技術や手法に対し厳しい利用規制が想定される。

一方、これらの案は公開後パブリックコメントを受け付けるが、その結果どのように変化し最終的な規制となるのか正直まだ見えてきていない。取引所や投資銀行、プロップファーム(※5)など、電子取引の関係者全てがこれらの分野に莫大な投資を行っており、強い態度で反対する、もしくは大幅な緩和を求めるのは間違いない。特に、これらの進化した技術や手法が、結果としてほぼ全ての投資家での大幅な取引コスト削減に繋がっている点が指摘されるだろう。SECの強硬な規制案は意図こそ明らかである反面、誰が得をするのかという点が定量的に明らかになっていないのである。

そして、こういった「衝突」の根本的な理由として、電子取引における「フェア」の概念を大きく変えようとしているのではないか、と疑っている。これまでは「優れたアイデアを最新のITで実現し、他の投資家を凌駕する」ことはあまり問題視されていなかった。これは、相当の投資が必要ではあるものの個人投資家を含め誰でも同じ手法を取ることができ、機会の平等の観点から「フェア」なためである。それが一連の規制案では、「流動性へのアクセスそのもの」といった過程の平等を含めて「フェア」を求めており、ある意味大幅な方針の転換にあたるといえる。

この「フェア」こそが、これまでの新規参入者による業界の活性化や、様々な技術導入を元にしたビジネスの競争と進化を支え、結果として業界の発展に繋がってきたのは間違いない。それだけに、メリットが明確でなければ、新たな考え方へのコンセンサスを得るのは難しいだろう。一方、現在こういった電子取引は、米国のみならず欧州やアジアへも展開されてきている。それだけにこれらの規制案の落としどころは、「米国離れ」も含めた関係者の今後の行動に大きな影響をもたらすのではないだろうか。

(※1)取引所やECN(Electronic Communication Network)が提供する注文形式のひとつ。なお、9月に規制案(フラッシュオーダー許容の根拠となる「規制の例外規定」の廃止)が提示されている。
(※2)電子取引における注文方法のひとつで、顧客注文を(証券会社での判断なしで)指定された取引所に送付する。高速・低遅延で注文を送付したい投資家が利用する。取引所に接続するシステムは証券会社が提供するのが一般的だが、投資家が独自に準備することもある。後者の場合、証券会社が取引所へ接続するIDを貸し出す形になる。(この場合、スポンサードDMA、もしくはネイキッド・アクセスとも呼ばれる) コンプライアンスやリスク管理の点から問題視されている。
(※3)執行システムと同じデータセンターに証券会社や投資家の取引システムを配置する、取引所やECNのサービス。出来る限り高速・低遅延で市場データを入手し注文を執行システムに送付したい、一部の投資家が利用している。
(※4)ここでいう流動性へのアクセスとは、取引所やECN、ダークプールなどに注文送付や注文状況の把握(可能・不可能に加え、どのタイミングで可能かなども含める)を示す。
(※5)自己売買を専業とする証券会社。

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