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「子ども手当」の直接的な負担と潜在的な負担

2009年10月28日

金融調査部 主任研究員 是枝 俊悟

民主党中心の政権が誕生し、マニフェストの目玉に掲げられた「子ども手当」の支給が実現へと向かっている。「子ども手当」は2011年度には中学生以下の子ども1人につき月額2万6,000円が支給するとのことであるが、中学生以下の子ども1人がいる世帯の収入が必ずしも月26,000円増加するわけではない。現行の児童手当の廃止と所得税における扶養控除(※1)・配偶者控除の廃止の影響もあるからである。

この面を考慮した世帯収入の増減がどの程度となるか試算すると以下のグラフのようになる。扶養控除・配偶者控除の廃止による増税額が高所得者ほど多いため、全体としては低所得者の方が世帯収入の純増額が多く、所得再分配の効果はある。しかし、一方で所得制限のある「児童手当」から所得制限なしの「子ども手当」への転換のため、年収800~1,000万円程度の高所得層も大きな恩恵を受けること、中学生以下の子どものいない片働き世帯は年2~13万円程度の増税(年収の純減)となることなどを筆者は選挙前より指摘してきていた(※2)

「子ども手当」の家計収入への影響(片働きの世帯)

しかしながら、これを持って「子ども手当」が誰から誰への所得分配なのかということを示すには十分ではない。現行の児童手当の廃止、扶養控除・配偶者控除の廃止により賄える財源は2.4兆円ほどであり、「子ども手当」の支給額5.3兆円には約2.9兆円が不足している。

この約2.9兆円の財源不足について、民主党は歳出削減などで捻出するとしているが、それができなければ潜在的には増税や新規国債発行で賄わなければならないことになる。

では、この潜在的な増税を考慮すると、「子ども手当」を誰が負担することになるのだろうか。一橋大学の高山教授・三菱総研の白石主席研究員が発表したディスカッションペーパー(※3)を見ると「子ども手当」の潜在的な負担が分かる。両氏は、「子ども手当」の導入とともに消費税率を1%引上げた場合の政策効果の試算を行っている。消費税率を1%引上げれば、ほぼ「子ども手当」の給付額と財源額が一致する(※4)。この場合、全世帯の75%を占める「17歳以下のこどもがいない世帯」(※5)のうち97%が負担純増(実質的な所得の純減)となり、その額は平均年4万円となる。

独身世帯やDINKS(共稼ぎで子どもがいない)の世帯など(※6)は、配偶者控除廃止などの影響を受けないので直接は増税とならないが、潜在的な増税を考慮すると、平均年4万円程度の負担を負うことになる。こうして考えると、「子ども手当」は子どもがいない世帯から子どもがいる世帯への分配であるという構図が鮮明になる。

鳩山政権は「社会全体で子どもを育てる」ことの意義を説き、負担増の世帯に理解を求めている。このまま少子高齢化が進むと、将来の日本の経済社会の担い手が減り、経済や社会保障が立ち行かなくなってしまう。その点を考えると、子育てを行っている世帯の日本の経済社会への貢献度は非常に大きい。

子どものいない世帯が、これから新たに子どもを育てようとするととても年4万円の負担では済まない。子育ては将来の日本の経済社会を支える大事な事業、それは、年金や医療と同様に社会全体で行っていかなければならない事業であることを考慮すると、子どものいない世帯は子どものいる世帯に一定の支援をしてもよいのではないだろうか。

潜在的な負担も含めて考えると、子ども手当が「社会全体で子どもを育てる」という理念の下に立っている政策であることがよく分かるだろう。

(※1)ただし、16~22歳の特定扶養親族については控除を残す模様である。

(※2)2009年8月23日付産経新聞3面、8月24日付朝日新聞朝刊11面など。

(※3)高山憲之・白石浩介「”こども手当”導入効果のマイクロシミュレーション」(2009年9月11日発表)

(※4)筆者の分析では「子ども手当」の財源を全額確保するには、児童手当・扶養控除・配偶者控除の廃止の他に消費税換算で1.2%分の増税が必要である。消費税率を1%引上げた場合、財政中立にかなり近い。

(※5)高山・白石両氏の研究では、「高校無償化」の影響も含んだ試算となっているため、「中学生以下のこどもがいる世帯」ではなく「17歳以下のこどもがいない世帯」という区分となっている。

(※6)既に子育てを終えた中高年の世帯も潜在的な負担を負うことになる。この世帯にとっては、自分は子育て時に「子ども手当」を受けないで子育てをした一方、「子ども手当」の財源も負担しなければならないという「二重の負担」の問題が生じる面がある。

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是枝 俊悟

執筆者紹介
金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟