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金融危機のおかげ?選択肢が広がる資産運用

2009年08月20日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰

リーマンショックから1年近くが経過し、金融市場は危機的状況を脱した。リスク資産から逃避した資金は、少しずつ回帰してきているようにも見えるが、世界の市場混乱から蒙った投資家の傷が癒えたわけではない。日本の個人金融資産残高は、2007年6月末の1571兆円をピークに今年3月末には1410兆円と2年弱で10%以上減少した。株式評価額の下落が主因だが、投資家のリスクに対する姿勢が以前と比べて一段と保守的になっていることは容易に想像がつく。国内の個人金融資産をリスク資産運用へと導き、日本企業に成長資金を供給するというのは今後の日本の成長戦略に不可欠と考えるが、今回の金融危機はそうした動きに水を差すものとなった。

もっとも、悪いことばかりかと言うと、必ずしもそうではない。そもそも金融危機は、米国の異常な住宅バブルが正常化する過程で起こったことであり、冷静に見れば様々な投資商品が“正常”もしくは“割安”な価格で投資できる機会を提供してくれている。典型的な例は「REIT(不動産投資信託)」であろう。住宅・不動産バブル崩壊と流動性危機を受けて業界環境が極度に悪化したとはいえ、REITの価格が平均で7割も下落したのは、ピーク時(2007年5月)の価格が異常であったことが一因である。本来、REITは比較的高い利回りを安定的に提供してくれる“ミドルリスク・ミドルリターン”の性格を持っている商品であるが、値上がり益を求める資金が大量に流入し、平均の予想配当利回りが一時は3%を割り込み、国債との利回り差が大きく縮んだ状況になっていた。金融危機後の混乱を経て、現在は5~6%の予想配当利回りが提示されており、リーズナブルな投資環境が提供されていると言えるだろう。(数字は日本のREITに関してだが、米国では2006年から2007年にかけてREITの利回りが国債利回りを下回る状況が常態化していた)

もうひとつ、金融危機を経て魅力が高まった投資対象として「社債」がある。REITと同様に“ミドルリスク・ミドルリターン”を提供してくれる投資商品としてはオーソドックスな存在であるが、これまで日本の社債市場は(1)規模が小さい、(2)流通市場が整っていない、(3)国債に対するスプレッドが薄い、(4)個人には投資し難い、などから投資家に認知されておらず、発行側も積極的でなかった。それが金融危機を境に社債の発行が急増し、投資対象としての認知度も高まった。証券化商品と異なりシンプルな社債は投資家が受け入れやすく、金融危機で国債に対するスプレッドが拡大したことも魅力を高めるのに働いた。また、機関投資家がリスク許容度を大きく低下させる中で個人向け社債の発行が急増し、個人の資産運用対象としての認知度も高まったのである。

日本には、これまで“ミドルリスク・ミドルリターン”の投資先の選択肢が十分でなく、個人の資産運用といえば、大半が“ローリスク・ローリターン”の預貯金であった。一方でリスク資産運用というと、短期のネット株売買やFX売買など極端な“ハイリスク・ハイリターン”運用に目が向きがちで、いわば両極端に偏っていた印象が強い。金融危機は“ハイリスク・ハイリターン”を志向する投資家には少なからず打撃となったであろうが、“ミドルリスク・ミドルリターン”の投資手段が認知され、市場が広がるきっかけになったことは、日本企業へのリスク資金の供給を促進するという意味において、大きな前進と考えたいところだ。

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保志 泰

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執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰