どうすれば出生率は上がるのか?
2009年05月19日
出生率を上げる最も効果的な方法は、共働き世帯を増やすことである。子育てには金銭的・時間的費用がかかる。最近では子育てを積極的に支援する企業が増えており、親が子育てを行う時間的余裕も徐々にではあるが生まれつつある。しかし、子育ての金銭的な費用を賄うはずの所得の見通しはかなり厳しい。現在の、政府の育児支援金は一時的な所得増加に過ぎず、子育てに必要な中長期的な所得改善にはあまり効果がないだろう。一方、共働き世帯の促進は、これまで非労働力人口化していた女性が労働市場に出ることにより労働力人口の増加に繋がるので、家計の生涯所得の上昇および経済全体の潜在成長率の増加に貢献する。
ここで問題は、どうやって共働き世帯を増やしていくかである。核家族化が進んだ現代社会では、昔のように祖父・祖母といった世代間で子育て費用を分散することが難しくなっている。そのため、共働き世帯では子供を保育園に預ける必要がある。しかし、本来は共働き世帯を支援するはず保育園が、実際には子育て世帯を全然支援できていない実態がある。
現在の保育園の立地状況を見ると、共働き世帯に便利な駅周辺ではなく、むしろ団地等の住宅地に集結している場合が多いように思われる。おそらくこれは、公共交通機関を利用しないパート労働者が、比較的近い勤務地内で短時間労働を行っていたというかつての就労形態と関係しているものと思われる。例えば、こうした保育園の預かり時間は夕方6時まで、といったものが多く、共に正社員である共働き世帯が預けるには時間的制約が厳しい。しかも、都市中心部の住宅価格が高止まりしているために郊外に住んでいれば、こうした時間的制約はいっそう厳しいものとなる。そのため、人々は短時間労働を選択するか、就労そのものをあきらめるか、もっと言えば、仕事を選択して出産自体を断念した人もいるのではないか。実際、東京ではどの保育園でも待機児童が何十人もおり、全く入園できない状況が常態化している。これでは所得も子供も増えるわけがない。
最近の日本の出生率の低下は、人々が出産・子育てに対する考え方が変わったというよりも、むしろこうした就労構造の変化に子育て支援体制が追いついていない可能性のほうが高い。例えば、共働き世帯が子育てしやすいよう、できるだけ駅の近くに多くの保育園を設けることで、労働力人口を増やして、同時に、待機児童の数を大幅に減らすべきである。そのためのインセンティブ政策を、政府は積極的に導入すべきである。
出生率の上昇は、労働市場や住宅市場も含めた日本の経済システムそのものの改革である。その際に重要なのは、家計などの経済主体の合理的な行動を踏まえた、冷静な議論を行うことである。
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