中国の不動産不況のなかにみるリスクとチャンス
2009年03月05日
昨年12月に出版された「2008年の中国居民収入分配年度報告」では、金融資産の偏在に関する中国人民銀行の調査結果を掲載している。同調査によると、2007年3月末時点の都市住民一人当たり個人貯蓄残高の分布は、10万元(約153万円、当時のレートで換算)以下の家計が98.22%を占め、その個人貯蓄残高は全体の48.39%を占めていたという。逆算すれば、僅か1.78%の家計が個人貯蓄残高の51.61%を占める計算となり、金融資産の著しい偏在が、公式調査でも明らかにされた。
これは個人貯蓄に関する調査であるが、株式保有についても同様のことが言える可能性は高い。個人金融資産の内訳をみると、株価急騰を主因に証券資産のウエイトが2006年末の11.5%から2007年末には27.6%へと急拡大している。「資産効果」を背景に、2007年の高級住宅への需要はかつてないブームの様相を呈したのだが、その資金的裏付けのひとつとなっていた株価は、2007年10月をピークに急落。上海・深圳の流通株式時価総額は2008年の1年間で4兆7850億元(前年比51.4%減)の減少を記録し、これは同年の名目GDPの15.9%に相当する程であった。こうしたなか、2007年に前年比26.5%の急増を記録した全国住宅販売面積は、2008年には一転して20%縮小し、住宅価格指数(前年同月比)は、2008年1月の11.3%上昇をピークに伸びが減速、2008年12月、2009年1月には下落に転じた。資産の偏在を勘案すれば、昨年来の株価急落の逆資産効果は、富裕層を直撃しているとみられ、住宅でも、特に高級物件では調整が長期化する可能性は否定できない。
しかし、リスクの中にチャンスも見える。逆資産効果(資産効果も然り)が富裕層に集中して発現するのであれば、一般市民の資産の毀損は小さいはずであり、今回の不動産不況は、高嶺の花となった住宅を一般市民の手に取り戻す好機でもある。今回の景気対策では、住宅に関しては、勤め人が購入可能な住宅の供給や、頭金比率の引き下げ、住宅ローン金利の引き下げなど、一般住宅の需要を喚起する方策が相次いで実施されている。これまで蚊帳の外に置かれていた中間層以下の需要を掘り起こそうとの政策であり、民生改善のみならず、住宅需要の下支えとしても一定の合理性を持つと評価できよう。折りしも本コラムが掲載される3月5日は、今年1年の施政方針である温家宝首相の「政府活動報告」が示される全人代の開幕日である。不動産不況への対応策にも注目したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年07月04日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
-
2022年07月01日
2022年5月雇用統計
失業率は4カ月ぶりに上昇するも、均して見れば雇用環境は改善傾向
-
2022年07月01日
2022年6月日銀短観
外部環境悪化と国内経済活動再開が製・非製の業況の明暗を分ける
-
2022年07月01日
ディスクロージャーワーキング・グループ報告(コーポレートガバナンスの開示等)
-
2022年07月04日
男性育休取得率の向上は「ゴール」にあらず
よく読まれているコラム
-
2021年12月01日
もし仮に日本で金利が上がり始めたら、国債の利払い費はどうなる?
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2022年05月31日
先進国からの制裁を浴びるロシアの通貨ルーブルが大幅上昇
~一旦半値に、その後資本規制により6年10カ月ぶりの高値へ~
-
2022年04月21日
日本経済はウクライナ危機・感染拡大の下で「悪い円安」に直面
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議