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浮上しては消える「相続税減免の無利子国債」構想

2009年03月03日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 政策調査部長 鈴木 準

景気の苛烈な悪化を受け、平時であれば採用しえない手段を含めて対策のアイデアが必要といわれる。相続税を減免した無利子国債の発行を財源に、景気対策を実施すべきという意見はその一つだ。景気対策の効果や税の公平性の問題はさておき、当該国債はどんな規模で発行を見込めるのだろうか。それが明らかでないと、政府の財源調達手段と位置づけることはできない。また、無利子とはいえ、負担すべきコストが本質的にない借入はあり得ない。

当該国債は、タイミングが不確実な死亡により発生する相続税減免の価値が、他の資産の期待運用益を、インフレリスクを考慮した上で上回ると計算できた個人によってのみ購入されるだろう。従って、よほど異常な高金利でない限り、通時的な意味で財政収支の悪化を一義的に伴う国債といえる。政府の立場からは、まず、それを甘受してでも得られる国民全体の利益が大きいならば、検討の余地ありということになる。

発行はどの程度見込めるか。直近統計によると、相続税が発生する資産を保有する被相続人は年率4.5万人(相続人ベースで11.5万人程度、4.5万人のうち3.1万人が課税価格2億円以下)で、課税価格に対する平均実効税率は12%である。また、課税される相続財産の約半分は土地で、現金・預金は2割にとどまる。人々が先行き10年の視野で相続税対策を考え、税優遇付き商品の導入が資産市場間の裁定をある程度促すとしても、当該国債の潜在的な市場規模は小さいのではないか。

その他、政府紙幣や中央銀行引受けを想定した無利子国債といった提案は、財源調達というよりは、コストとしてのインフレを逆手にとったデフレ対策やリフレ政策の色彩が強い。だが、物価政策は金融政策として議論しないと、うまくはいかないだろう。ちなみに、フランスでは1952年に同様の税優遇を付したピネー国債(金利3.5%)が発行された。その主眼は市中の流動性を吸収するインフレ対策だったが、結果的には生産活動を低下させてしまったという(モーリス・レヴィ=ルボワイエ『市場の創出-現代フランス経済史』中山裕史訳、日本経済評論社)。

流動性が高く、それだけ調達コストが低い既存の国債市場があるにもかかわらず、無利子国債の構想は過去にもあちこちで浮上した。特に今回に関していえば、日本国債の消化に懸念があるかのような誤ったメッセージを、危機のさなかにあるグローバルな金融市場におくるリスクに注意である。奇抜な制度を導入するという話には至らないだろう。

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