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自由な経済活動は技術進歩を促すか?

2009年02月17日

経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄

生産性を高めるためには規制緩和をして自由な経済活動を認めることが必要だ、と言われることがある。もっともな意見のようにも思えるが、これは果たして本当なのか?

過去の世の中の発展の歴史を紐解くと、様々な規制や経済的な制約が新たな技術を生み出した事例も散見される。例えば、証券化の技術は米国にかつて存在した、マクファーデン法と呼ばれる州を跨いで業務を行うことを禁止する法律の影響があった。銀行にとって、同じ州内に限定された貸出を行うことはリスク管理上、難しい側面がある。なぜならば、州内には関連した業種が多く存在するため、業績も似たような変動を示すことが多く、よって貸出ポートフォリオのリスク分散が難しいからである。そこで、比較的リスクの管理しやすい優良な債権を銀行のバランスシートから切り離し、それを証券化することで銀行はリスクを軽減することが可能になった。これにより、それまでは銀行以外では扱うことの難しかったクレジット・リスクが、資本市場を通じてリスク管理するという新しい技術を生み出すことに繋がっていったのである。

また、時代を遡って蒸気機関の発明の背景を見てみよう。産業革命が起こる前の生産活動では属人的な技術・能力に依存した生産が多かったため、その生産に携わることの出来る人材がどうしても不足してしまい、過少労働による賃金の高止まりで生産性がなかなか向上しない、という現象が見られた。しかし、この時期に発明された蒸気機関が単純労働を代替することによって、人材不足を解消して賃金コストを下げ、生産性を高めていった。賃金の高止まりというコスト制約が、技術革新を生み出す素地を作り上げたのである。

人間はより良い暮らしを目指し、日常生活に存在する様々な制約を何とか克服しようと努力する。そうした克服の過程で頭をひねり、偉大な技術革新が生まれることも多いのである。そして、当面の制約を乗り越えるための技術であったものが、次第にその技術は他の分野にも応用されるようになり、技術のスピルオーバーによって徐々に全体の技術水準も上がっていく。こうした人々の誘因を考えると、規制緩和を徹底することで自由な土俵を設けようとすることは、逆に人々のアイディアをひねり出す誘因を削ぐことにはならないか。

もちろん、人々の行動をがんじがらめにする規制は生産性向上には寄与しない。技術的条件が変化しないような短期では、むしろ規制緩和は自由な経済活動を保証し、生産性の向上に寄与するだろう。しかし、技術的条件が変化していく長期的な視点で考えれば、規制の少ない自由な経済活動は逆に新たな発想の原動力を奪いかねず、生産性にとって一概にプラスとは言えないようにも思われる。世の中の技術進歩を高めるには、自由だけでなく、ある程度の制約条件も必要である。

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溝端 幹雄

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