オバマ政権と株主アクティビズムの拡大
2009年01月19日
オバマ政権が正式に発足する。新政権が金融機関監督だけでなく、証券市場の適正化にも並々ならぬ関心を持っていることは、証券取引委員会(SEC)の新委員長をいち早く指名したことにも見て取れる。これまで政権交代があったとしても、SEC委員長の指名は、後回しにされることが多く、新政権発足後数ヶ月ということも珍しくなかった。マドフ事件の解明が国民的な関心になっていることもあろうが、新政権の証券市場政策は、これまでとはかなり異なるのではないだろうか。
オバマ政権下で行なわれると予想される新政策の中には、株主の権利拡大を図るものが幾つかある。経営者報酬の株主総会議案化、保管ブローカーによる代理投票制改正、過半数賛成制の制度化、取締役選任に関する株主提案の容易化、経営者の高額報酬見直しなどブッシュ政権下でブレーキがかけられていた様々な新制度が一気に動き出しそうだ。
経営者報酬の株主総会議案化は、「say on pay」と呼ばれ、上院議員時代にオバマ新大統領自身が法案を提出している。これは、経営者の報酬を株主総会の議案にして株主の賛否を問うというものだ。もっとも、ここでの決議は「advisory voting」、つまり勧告的決議で、可決したとしても会社(経営者)を拘束しない。とはいえ、経営者報酬に関する株主の声が明確に示されることととなり、高額報酬を維持しにくくなるかもしれない。
保管ブローカーによる代理投票制改正も大きなインパクトを持つ。米国では、株主総会において実質株主が行使しない議決権を保管ブローカーが代理行使をすることが認められている。これを改正し、取締役選任議案については、代理行使を認めないとする方向だ。これにより取締役選任議案について実質株主が議決権を不行使であれば、改正前なら保管ブローカーにより実質的には賛成として行使されるが、改正が施行されると、行使されなくなるので結果的に賛成票が減少することになる。
また、これまで信任投票的な「Plurality voting」が多くの会社で採用されていたが、過半数株主の賛成を可決要件とする「Majority voting」が制度化されるとすればこれも重要な影響をもたらすだろう。現状では、取締役選任に反対と言う意思が多数表明されていたとしても、決議の行方には影響を及ぼさないようになっていた。極端にいえば、賛成が1票でもあれば、残りの議決権が賛成して無くても取締役は選任されていた。
こうした一連の改正は、株主権を強化する方向であり、年金基金や労組基金の要求が強かった事項だ。しかし、影響はそれにとどまらず、いわゆるアクティビスト・ファンドにとっても、使える手段が充実することとなる。
保管ブローカーの議決権が行使されなければ、必ず権利行使をするアクティビストの影響力は相対的に強まるし、取締役選任を阻止しようとしても現状では極めて困難だが、「Majority voting」であれば、昨年のアデランス定時総会のように、否決に追い込むこともできる。経営者と対立する株主が独自に取締役候補者を立てることも容易になる制度改正も予定されている。そのようなわけで、オバマ政権ではアクティビストの行動が一層強化するのではないかと思われるのである。
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政策調査部
主席研究員 鈴木 裕
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