自己株取得の規制緩和によって株価は上昇するか
2008年10月22日
10月14日、金融庁は、相場操縦の防止のために設けられている、自己株取得に関する市場規制を一部緩和した。年内いっぱい適用されることとなる。
この規制緩和は、最近の世界的な株安を受けて開催された、サミット緊急会合での麻生首相の発言を受けてなされたものである。規制緩和の内容は、1日の買付数量の上限の引上げと買付時間の延長である。具体的には、1日の買付数量の上限の引上げによって、通常は、直近4週間の1日平均売買高の原則25%を上限として自己株の買付を行うこととされているが、それが特例措置として100%まで引上げられる。また、買付時間の延長により、通常は禁止されている午後2時30分以降の30分間の自己株の買付が、特例措置として認められることとなる。この特例措置によって、上場会社の自己株取得を容易にすることで株式の需給を改善し、株価を上昇させることが期待されている。
実は、今回の自己株取得の規制緩和と同様の措置は、2003年3月から6月まで行われたことがある。この時期には日経平均株価がバブル後最安値を更新し(4月28日には7,607円を記録)、金融庁は緊急市場安定策として、自己株取得の規制緩和などの対策を行った。
今回の規制緩和により株価の上昇が期待されているわけだが、この措置が効果的かどうかを検討する際には、以下の点に留意する必要があるだろう。まず、今回の規制緩和が適用されるのは、複数ある自己株取得の手法のうちの一部であるということである。自己株取得の手法には、(東証上場会社の場合)ToSTNeT市場における買付、オークション市場(いわゆるザラバ)における買付、公開買付による市場外買付などの手法がある。このうち先の規制緩和が適用されるのは、オークション市場における買付であり、ToSTNeT市場における買付と公開買付による買付には適用されない。
また、自己株取得は会社法によって財源規制が課されており、自己株の買付は分配可能額(おおむね剰余金の額に相当)の範囲内でしか許されない。今回の金融商品取引法令に基づく相場操縦の防止の規制の緩和は、あくまで1日あたりの買付数量の上限の引上げである。会社法の財源規制に基づくトータルの買付可能数量が引上げられたわけではない。
以上の検討から、今回の規制緩和によって自己株取得は容易にはなるだろうが、自己株取得が急激に増加して株価が上昇するとは、必ずしも言えないと考えられる。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 金本 悠希
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