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期待が高まるiPS細胞技術の産業応用

2008年07月10日

依田 宏樹

昨年11月、京都大学の山中伸弥教授らがヒトiPS細胞の樹立に成功し、世界中の注目を集めた。これはヒトiPS細胞樹立の成果が、倫理的な制約が少なく免疫拒絶の無い移植療法への実現可能性を提示したからである。再生医療実現に向け、iPS細胞の応用研究は急速に広がりを見せている。例えば、実験動物でiPS細胞を用いて脊髄損傷やパーキンソン病の症状を一部改善できたことが、すでに報告された。その他にも、心筋梗塞、網膜疾患、角膜損傷、糖尿病など、様々な疾患を対象にした応用研究が現在進められつつある。

とは言うもののiPS細胞技術はまだ誕生したばかりであり、過剰な期待は禁物である。腫瘍化しないiPS細胞の開発、狙った細胞へと分化誘導させる手法の開発など、解決すべき課題は少なくない。十分な安全性の確保も含め、人への臨床応用にはまだまだ時間がかかるだろう。発生生物学などの基礎研究の充実を図りつつ疾患治療を念頭においた応用研究を進めることが、本格的な再生医療実現の近道になるかもしれない。

一方、再生医療よりも早く実現すると考えられているのが、安全性がそれほど問題とならない、創薬支援ツールとしての利用である。経済産業省所管のNEDO(※1)及び産業技術総合研究所では、iPS細胞から心筋細胞を分化誘導し、拍動を測定する装置と組み合わせて、医薬品候補化合物の毒性を評価する系の開発に乗り出した。京都大学は今年7月からヒト、マウス双方のiPS細胞の民間企業への供給を開始する。標準となるiPS細胞を決める必要があるなどの課題はあるものの、iPS細胞が実際に新薬開発に有効であるという成功事例が出始めれば、そう遠くない将来、産業界での利用が普及する可能性もあるだろう。

iPS細胞技術の産業化には知的財産も鍵となる。京都大学は今年6月、大和証券グループ本社を含む金融三社の出資を受けiPS細胞の知財管理会社「iPSアカデミアジャパン」を設立した。iPS細胞の基本特許に加えて関連特許を国内外から獲得し、特許ポートフォリオの管理・運用を推進する。iPS細胞の民間企業供給と合わせて、これでようやく日本においても産業化への体制が整備され始めたといったところだろうか。

熾烈化する国際研究競争を背景に、日本政府は様々な支援策を打ち出し、研究を進めやすい環境体制の構築に尽力している。日本発の革新的な技術を戦略的に活用し、是非とも産業化の国際的主導権を握ってほしい。

(※1):NEDO
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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