値上げ・原油高による家計への負担増は青森県がトップ

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2008年06月16日

原油価格(WTI)が140ドル/bblに迫っている。過去を振り返ると、40ドル/bblを超えたのは04年5月であった。単純に言えば、100年かけて40ドル/bbl上昇した原油価格が、わずか4年で100ドル/上昇したのである。さらに、07年からは原油だけでなく穀物の価格も急騰していることから、資源高が世界的に重大な問題となっている。

日本国内に目を向けると、原油高と穀物高によって食料や外食、エネルギーを中心に小売価格が上昇しており、家計の暮らしぶりが急激に悪化している。しかし、その度合いは地域別にみると大きな開きがある。これは、所得水準やライフスタイル、気温にバラつきがあるため、価格が上昇した品目に対する消費額が異なっているためである。そこで、食料、外食、エネルギー価格の上昇によって、各都道府県でどれくらい家計消費額が増加したのかを試算した。

試算結果は下図の通りである。結果から言うと、04年の月当たり消費額が08年4月と比較して最も増加したのは青森県(8,491円)で、逆に増加額が最も小さかったのは東京都(3,370円)であった(※1)。青森県と東京都の差は実に2.5倍強となっている。また、年間収入(月平均)比率で考えれば、青森県が1.7%に対して東京都が0.5%と、両地域の差はさらに拡大する。

試算結果を、(1) 気温、(2)ライフスタイル、(3)都市化度合い、の3つのポイントからみてみよう。気温が関係するのは、いうまでもなく灯油である。寒い地域ほど灯油消費量が増えるが、その中でも青森県の消費額が最も高い。月当たり3,662円(他の光熱含む)で、温暖な沖縄県(489円)の約8倍である。次に、ライフスタイルで特に特徴が出ているのが穀物消費である。米の名産地として名高い新潟県は、イメージ通り米消費額が全国トップであるが、米価は04年から18.9%下落して米消費額が1,510円減少したことで、他の食料や外食の消費額の増加分(1,518円)をオフセットした。一方で、パンの消費額ウェイトが相対的に高い大都市部では、米価下落による穀物消費額の減少幅は小さかった。最後に、都市化度合いについてはガソリン消費が当てはまる。一般的に、都会であるほど車に乗る機会は減るため、都会であればあるほどガソリン消費額は少なくなる。しかし、統計をみるとこの傾向が明確に当てはまるのは関東と関西の大都市圏であり、それ以外の地域ではそれほど大きな差はみられなかった。ただ、両地域の消費額の開きは他の品目よりも大きく、消費増加額で最も大きく開きがあった東京都と茨城県では3,334円であった。総じてみると、消費額の増加分の約8割がエネルギー価格(主にガソリン、灯油)の上昇によるものであり、食料や外食の押し上げは小さかった。

日本経済は大企業製造業を中心に景気拡大してきた。それは、いわば景気拡大の恩恵がGDPの約4割を占める大都市部(東京、神奈川、名古屋、大阪)に集中したことを表している。これらの地域の可処分所得は地方よりも高い上に、地方よりも値上げやエネルギー価格の上昇の影響をはるかに受けにくい。可処分所得は04年から07年で増加どころか減少している現在、地方で生活している家計の苦しさは一般的に考えられている以上に厳しいと思われる。4月頃からアジアやアフリカの一部で資源高に対する抗議行動が報じられているが、地方にとっても他人事ではない状況だと言えよう。

(※1)各都道府県の品目別消費額は5年に1度発表される「全国消費実態調査」から入手したため、その最新年である04年をベンチマークとした。

食料、外食、エネルギー価格の上昇で、現在の消費支出が04年平均からどれだけ増えたか

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司