株主提案は意外と低調?
2008年06月03日
株主提案は前年比急減
昨年の株主総会では、外資系ファンドから数多くの株主提案が出された。主に剰余金配当の増額を求めるもので、他の株主からの少なからぬ賛成票があったようだが、ファンドからの提案で可決に至るものはなかった。株主主導で投資先会社の財務構造の変革を実現させようとする試みであり、会社経営者にとっては緊張感の高まる変化だったといえるだろう。
しかし、今年の総会で株主提案を受けている会社の数は少ない。提案権の行使は、総会の8週間前までに行わなければならないことからみると確実に昨年よりは少なくなる。外資系ファンドからの株主提案としては、チルドレンズ(※1)がJ-POWERに、ブランデス(※2)が日比谷総合設備と小野薬品工業(※3)にそれぞれ配当増額の提案をしたが、小野薬品工業への提案は取り下げられた。昨年注目を集めたスティール・パートナーズは、企業価値向上を目指した提言をいくつかの会社に投げかけているが、株主提案はないようだ。
配当政策は大きな変化を見せる
こうした状況は、株主の行動が消極的になっているからか。日本の会社は株主が何を言っても変わらないので、外資さえモノを言わぬようになってしまったのだろうか。
実態はそうではなく、むしろ株主と話し合えば会社経営が変わっていくので、あえて株主提案という敵対的な印象を与える手段を取ることが少なくなっているからではないか。内部留保の適正化を株主が求めれば、経営者が「ハイ分かりました」と増配を決めるわけではないが、配当政策を見直すきっかけになり、その後に実際に増配されることも珍しくない。J-POWER(※4)は、年間60円配当を70円に引き上げる予定であるし、ブランデスが提案を撤回した小野薬品工業は、年間180円の予定を202円にする見通しだ(※5)。上場会社の配当総額は、持続的に増加傾向にあり、増配は日本全体の流れになっている。
年金基金を含む海外投資家、それに生保を含む国内の投資家は、頻繁に経営者と話し合い、経営効率の改善や財務構造の適正化を求めているし、欧米の大手機関投資家が、日本の会社へガバナンスの改善を求める報告を先ごろまとめたとのことだ(※6)。外資系ファンドや海外年金基金から、配当政策などについて話し合いの機会を求めるレターを受ける会社はかなり多くなっているようだ。経営者が耳をふさぎ続けることはもはやできない。こうした対話の中で、株主の声が現実に会社経営を変えるようになっている。「配当が少ない」「株主軽視だ」とも言われる日本の会社だが、ゆっくりとではあるが変わりつつある。
(※1)英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)
(※2)米投資ファンドのブランデス・インベストメント・パートナーズ
(※3)ブランデス・インベストメント・パートナーズ ホームページより
(※4)J-POWER ホームページより
(※5)小野薬品工業株式会社 ホームページより
(※6)日本のコーポレート・ガバナンス白書 2008年5月(ACGA)
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主席研究員 鈴木 裕
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