物価は上昇するか

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2008年03月26日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
日本銀行の総裁人事をめぐる一連の動きは、議院内閣制と二院制の関係や政治のゲームといった点で多くの話題を提供している。ただ、誰が総裁になろうとも、今後の金融政策がどのような考え方でどう行われ、日本の経済や物価がこれからどうなりそうかが重要である。総裁の交代という好機にもかかわらず、残念ながら、そうした議論は少ない。

10年利付国債と10年物価連動債の利回り格差でみた債券市場のインフレ予想は、一時的にはともかく、2006年以降は基本的に弱まる傾向で推移した。他方、内閣府「消費動向調査」や日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」で家計の1年後のインフレ予想をみると、上昇予想の弱さが2002年以降解消してきており、2007年秋以降は上昇予想が急速に強まっている。

個々人が物価を予想する際には、日常の消費で直面している購入価格の変化に大きく影響されるだろう。数年に一度しか買わない耐久財などの価格変化に対する実感は薄く、反対に、毎日、毎週、毎月購入する商品・サービスの価格変化には敏感と考えられる。また、消費者物価は前年同月比で議論されることが多いが、家計にとっては数週間前や数か月前、半年前と比べた変化が重要かもしれない。

2008年1月の消費者物価指数を2005年平均と比べると(下図)、総合指数(持家の帰属家賃を除く)は0.9%高いが、そのうち、頻繁に購入する品目は1.8%高く、月1回程度購入する品目は4.5%高い。これに対して、まれに(年1回程度未満で)しか購入されない品目は3.5%低い。一部の食品やガソリンなど購入頻度の高い商品の値上げに関する盛んなマスコミ報道も、家計のインフレ予想を強めている可能性があろう。

物価全体が上昇基調となるには、賃金の上昇が必要と思われる。2008年の春闘は、政財界から前向きの発言も当初聞かれたが、総じて期待外れだったとの評価が多い。それもそのはずで、日本的雇用慣行の修正に労使が試行錯誤の現状下、内外経済の先行きに不透明感が増す中で大きな賃上げをすれば、労働分配率が再び高止まるだろう。労働生産性向上に裏打ちされた賃上げとデフレからの完全脱却は強く求められるが、景気の調整色が強まったのでは元も子もない。物価上昇は先の話ではないか。

購入頻度別にみた消費者物価の変化

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鈴木 準
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