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相次ぐ値上げとスタグフレーションの可能性

2008年02月29日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

昨年の夏頃から、食料品を中心に値上げが相次いでいる。原油価格や小麦、とうもろこしといった原材料価格の急騰を背景に、パンや麺類、ハムやマヨネーズなど、生活に身近なものが値上げされている。すでに値上げを予定している品目をみると、今春に値上げされる食料品は少なくない。値上げラッシュはまだまだ続きそうだ。

値上げが行われたからといっても、小売価格が上昇するとは限らない。過去の例を挙げると、ティッシュのように、企業が値上げを表明しても小売価格へ転嫁できなかったものもあった。問題は「値上げ分を小売価格へ転嫁できるかどうか」であり、その答えの1つにマクロ全体の需給関係が挙げられる。その代表的な指標であるGDPギャップをみると、約6年に及ぶ景気拡大で需給が引き締まっているため、現在は値上げが浸透しやすい環境にある。実際、生鮮食品を除く消費者物価指数で、上昇した品目の割合から下落した品目の割合を引いた水準をみると、03年頃から概ね右肩上がりで上昇し続けており、インフレの裾野が確実に広がっている。さらに、内閣府の「消費動向調査」によると、家計の期待インフレ率は足元で急激に高まっており、家計側も小売価格の上昇を相当程度織り込んでいるとみられる。こうしたことから、今回の値上げが小売価格へ浸透する可能性が高い。08年はインフレが特に加速する年となるかもしれない。

値上げが浸透するとなると、厳しい立場に置かれるのはいうまでもなく家計である。今後も本格的な賃金の上昇が期待しにくい中で、必需品の価格が上昇すれば、家計から企業へ所得移転され、家計の実質的な購買力が低下することになる。購買力が低下すれば、何かを切り詰めなければならなくなり、耐久財やサービスといった日本のコア消費を減らすことになろう。さらに、家計のマインドが低下すれば、消費をさらに押し下げることになる。

家計の中でも、特に雇用者全体の7割弱を占めている中小企業の雇用者世帯への影響が最も大きいと思われる。今回の景気拡大は外需主導型であり、その恩恵の大部分は外需と結びついた大企業へ分配された。大企業が賃金上昇を抑制していることもあり、外需から内需へのバトンタッチがうまくいかなかったため、主に内需と結びついている中小企業への恩恵は非常に小さかった。

こうした中で、米国の景気が「減速」ではなく「後退」となれば、EUやアジア経済の景気も大きく減速もしくは後退することになり、日本経済も相当なダメージを受けることが予想される。物価は景気(GDPギャップ)に遅行して動くことや、値上げによってインフレ圧力が強い状況が続くことを考えれば、最悪のケースとして景気後退とインフレが同時進行する、いわゆる「スタグフレーション」に陥るかもしれない。先進国でスタグフレーションに陥ったのは、主に第一次(1973-74年)、第二次オイルショック(79年)の2回であり、いずれも原油の供給ショックが要因であった。供給ショックではないスタグフレーションが起きれば、日本は未曾有の事態に直面することになる。

とはいえ、現時点ではこうした可能性は非常に低いとみている。米国経済は減速に留まるとみられることに加え、非米国(産油国やアジアなど)向け輸出が下支えすることから、日本の輸出は緩やかながらも拡大するとみられる。外需主導の景気拡大はまだ続くことになろう。

景気拡大が続くか、スタグフレーションに陥るか。その答えは日本国内ではなく、あくまで外部環境次第である。

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神田 慶司

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経済調査部
シニアエコノミスト 神田 慶司