次世代エネルギー「水素」の可能性

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2007年12月18日

  • 岡村 公司

さまざまな研究開発や実証実験が進む「水素」

化石燃料に代わる次世代エネルギーとして、水素が注目されている。水から製造することも可能なクリーンエネルギーで、使用時には温室効果ガスを排出しない。燃料電池車や住宅用燃料電池などでの利用を目指して、さまざまな研究開発や実証実験が進められている。

水素・燃料電池実証プロジェクト(※1)では、燃料電池車の実用化に向けた実証実験や普及活動などを推進している。トヨタ自動車(7203:東)や日産自動車(7201:東)等の自動車メーカー、新日本石油(5001:東)や東京ガス(9531:東)等のエネルギー関連会社などが参画し、水素の製造方法、燃料電池車の性能や環境特性などに関するデータを計測する。そのデータを分析し、燃料電池車や水素ステーション(※2)の性能向上やコスト低減などを図っている。

一方、九州大学では「水素キャンパス構想」が進められている。キャンパスを「ミニ水素社会モデル」とし、水素を主要なエネルギー源とする実証研究が展開されている。地元の自治体でも、「福岡水素利用技術研究開発特区」の認定を受けて研究開発を後押しするとともに、「福岡水素エネルギー戦略会議」を設置し、実証活動や人材育成等も推進している。

化石燃料に代わる重要なエネルギー源に

山口県周南市では、水素タウンモデル事業を実施している。カセイソーダ工場で副生物として生成される水素をパイプラインで運び、住宅用燃料電池で使用する。副生水素の有効活用で電気と熱を供給する。

燃料電池以外の用途には水素エンジン車がある。ガソリンの代わりに水素を燃料として内燃機関(※3)を動かす自動車で、マツダ(7261:東)やBMWが実用化で先行している。

水素や自動車の製造コストの低減、白金触媒の使用量削減、水素貯蔵技術の改善など、課題も多い。通常のエネルギー資源と異なり使える形で自然界に存在しないため、経済的かつエネルギー的に効率的な製造法が要求される。1台当たり1億円とも言われる燃料電池車のコスト低減も欠かせない。また、触媒に使われる白金は希少金属の一つで、燃料電池を広く普及させるには単位使用量の大幅削減や代替触媒の開発などが必要になる。

長期的には枯渇することが懸念される化石燃料に代わって、水素が重要なエネルギー源になる可能性は高い。課題解決には10年超の長期的な事業方針が基本となるが、潜在的な市場規模が大きいだけに、立ち上がり期を逃さない機敏な対応も重要になろう。

(※1)経済産業省の長期プロジェクトで、実使用に近い条件下で実証実験を行うとともに、燃料電池車の規格や基準等を作成するためのデータ収集も進めている。

(※2)ガソリンスタンドの水素版で、燃料電池車に水素燃料を補給するための施設。

(※3)内部で燃焼した気体の膨張エネルギーで直接ピストンやタービンなどを動かして、駆動力を発生する機関の総称。通常はガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどを指す。

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