中国の産業地図を塗り替える可能性を秘める曹妃甸工業区開発

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2007年12月12日

大和総研リサーチツアーの一環として、11月27日~28日にかけて中国河北省唐山市の曹妃甸工業区を訪問した。胡錦涛・国家主席は、2006年7月29日に曹妃甸工業区を視察し、その際に、「5年もすれば中国の産業地図が変わる」と述べたとされるが、曹妃甸はそうした可能性を十分に有していると実感した。

曹妃甸島は広い浅瀬で陸地と繋がる。この310 km2の浅瀬(シンガポールの国土の約半分の面積)の浅瀬を埋め立てて、一大工業区を開発するのが「曹妃甸工業区」計画であり、2030年にかけて世界最大級の重化学工業基地が建設される。中核産業は、(1)港湾物流(最終的には年間取扱能力5億トンの巨大港を建設)、(2)高品質鉄鋼、(3)設備製造業、(4)石油化学工業であるが、紙面の関係上、ここでは鉄鋼についてコメントしたい。

鉄鋼では、2005年10月に首都鋼鉄51%、唐山鋼鉄49%の出資比率で「首鋼京唐鋼鉄聯合有限公司」が設立された。同社は最終的には、内容積5500m3(立方メートル)以上の高炉4基で高効率・高品位の鋼材を大量生産する計画である。2010年までの第1期では768億元(約1兆1520億円)、第2期を含めれば1200億元(約1兆8000億円)もの投資が行われる巨大プロジェクトである。第1期の高炉2基については、2007年2月に着工し、2009年5月には一部生産を開始予定で、2010年に970万トン、最終的には1500万トン~2000万トンの生産を目指す(北京の首都鋼鉄の高炉は閉鎖)。同社の効率は「韓国のPOSCOを上回る」とのことで、新工場の水消費量は全国平均の1/3、エネルギー消費量は現在比30%低下するという。同社の特徴は、比較的高品位の鋼材を低コストで生産することであろう。唐山市人民政府日本事務所によれば、(1)曹妃甸港を利用することで、鉄鉱石の単位当たり運賃が安くなるうえ(10万トンの鉄鉱石運搬船と比較して25万トン船は、トン当たり76元=約1140円のコストダウン)、港と製鉄所を長さ12kmのベルトコンベアーで連結し、船からの鉄鉱石運搬を全て無人化・自動化することなどにより、コストが従来比でトン当たり200元(約3000円)低下する、(2)一部設備・機械は日本やドイツからの導入が決まっており、当初から自動車、ボイラー、造船、電気機器向けの高級鋼材を生産する、という。

開発規模の大きさもさることながら、より注目されるのは、曹妃甸工業区が環境に最大限の配慮をしていることである。中国政府は、第11次5ヵ年計画(2006年~2010年)において、環境保全・省エネに注力しており、曹妃甸工業区は2005年10月に中国初の「循環型経済モデル区」に指定されている。曹妃甸工業区の中核産業である重化学工業は典型的な高エネルギー・資源消費、高汚染産業であるが、同区の最大の特徴は、減量化・再利用・資源化のいわゆる3Rの理念が開発の設計段階で組み込まれていることである。曹妃甸工業区管理委員会の話では、工業区内の固形廃棄物と廃水は100%、工業廃棄物は98%が再利用される計画であり、日本、米国、ノルウェーの技術が一部で導入されるという。曹妃甸工業区は中国が志向する産業の高度化・高エネルギー効率・低環境負荷に裏打ちされた「経済成長や産業構造の質的向上」のモデルケースとして、今後の動向が注目されよう。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登