香港:政治も中国化?

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2007年11月27日

  • 牧野 正俊
サブプライム問題やそれに伴う米国の景気悪化懸念から、世界の株式市場は不安定な展開となっているが、香港株は、そうしたグローバルな要因に加えて、相次いで打ち出されたり変更される中国当局の市場対策に振り回され、より変動の激しい動きとなっている。

香港市場を一喜一憂させているのが、中国の国内個人投資家に海外株への直接投資を認めるという規制緩和である。8月にこの政策が発表されると、『中国の株式市場に比べて割安な香港市場に、中国からの大量の投資資金が流れ込んでくる』という思惑が、香港株を大きく押し上げた。ところが、この導入が延期され、また投資金額に上限が定められるなどの噂が流れると、香港市場は逆に失望売りを浴びせられた。

かつて銀行、不動産などの金利敏感銘柄が主役であった香港市場では、香港ドルが米ドルとのペッグ制を維持していることから米国金利の動向が最も重要な要因であったが、中国工商銀行や中国電信、中国石油といった大陸企業が太宗を占めるようになった現在では、中国の様々な動向が株式市場にもっとも大きな影響を及ぼすようになっている。

さて、経済も株式市場も中国に大きく左右されるようになった香港では、政治のほうも中国色が一層強まっている可能性がある。

11月18日に行われた区議会選挙では親中派の民主建港連盟が前回の議席数62を115と大きく伸ばした一方、反中・反体制派の牙城であった民主党の議席数は95から59へと急減した。前回の選挙があった2003年は、国家保安条例の導入を巡り50万人規模の反対デモが繰り広げられるなど、反中感情が高まっていた。当時は、その余勢を駆って民主派が大勝したが、今回は逆の結果となった。

現在香港では、資産価格が上昇し失業率も低下するなど、多くの市民は好景気を謳歌している。景気沈滞にSARS(重症急性呼吸器症候群)の蔓延が追い討ちをかけた2003年とはまったく様相が異なる。こうした好景気が中国のおかげであることは皆承知している。中国がうまく経済のカジ取りをして、香港も恩恵を受けるのであれば、中国政府の神経を逆なでするような民主化を声高に叫ぶ必要はない、というのが一般市民の正直な気持ちではないだろうか。

区議会選挙に続き、12月には日本の国会にあたる立法会の補欠選挙が行われる。この選挙では、前政務長官で今も市民から絶大な人気を誇るアンソン・チャン氏と、先に述べた治安立法制定を図り、結局辞任に追い込まれた元保安局長レジーナ・イップ氏が対決する。民主寄りのチャン氏の絶対的優位というのが当初の一般的な見方であったが、ここへきて、イップ氏が徐々にその差を詰めてきている、との報道もある。

区議会選挙で親中派が大勝したことから、香港市民がバランス感覚を働かせて、民主派のチャン氏を支持するのか、あるいは、イップ氏が予想以上に善戦し、香港市民の大陸傾斜を再確認することになるのか、興味深いところである。

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