株式会社の国家所有

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2007年11月15日

ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)が注目を集めている。SWFは、明確に定義されているわけではないが、政府が保有するファンドで、積極的な運用を行うものというように理解されている。SWFは、いまや様々な国で運営されているが、オイルマネーを原資とするUAE(アラブ首長国連邦)やサウジアラビアなど中東産油国やシンガポール、ノルウェーが先行していた。近年では、中国、韓国、ロシアでも設立されており、資金量が膨張している。SWFは、資金総額でヘッジファンドと並ぶ水準にまで至っているだけでなく、一つ一つの資産規模が巨大でしかも運用状況開示が進んでいないので、投資対象となった市場を急激に変動させる恐れがあることは確かだろう。10月に米国ワシントンDCで開催されたG7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)で、SWFに対するベスト・プラクティスを策定することを検討すべきとする共同声明が発表された通りだ。

SWFが、株式保有を志向すれば、さらに別の問題を生じさせかねない。第一の問題は、限られた投資対象である株式に巨額の公的資金が投じられることで、民間の投資資金が投資機会を奪われる恐れがあるということだ。上場株式会社に対する投資機会が一定であれば、公的資金による株式保有の分だけ、民間資金の投資は行き先を失う。SWFと民間資金を合算すれば収益に変動は無いかもしれないが、パイの切り分け方が変わってしまうのである。

もう一つの問題は、SWFが市場の公正性を歪める恐れがあることだ。例えば、同業のA社とB社で、SWFがA社株を購入するという情報は、A社がある種の公的サポートを受けるという情報となりかねない。国家の資金が民間会社の株式を保有するということ自体が民間への介入とも思えなくもない。

さらにSWF資金が海外投資に向かえば、相手国の安全保障を害する恐れも生じよう。SWFとは直接かかわらないが、同じような問題は過去に生じている。UAEの公営港湾管理会社が、米国主要港湾のオペレーションを行う会社を買収しようとした時に、まさに安全保障問題と位置づけられ、米国議会の要請で米国事業の分離が実施されたという事例がある。SWFが他国の金融機関株の過半を所有している事例もあるようだ。

SWFによる株式保有には、公的主体による株式保有の是非と言う問題が生じ、さらには安全保障上の摩擦の要因ともなりかねない。過去のポンド危機やアジア通貨危機などヘッジファンドが巻き起こしたような混乱をSWFは避けられるだろうか。あるいはSWFがアクティビスト・ファンドのような行動で、会社の経営を左右するような事態が生じるのであろうか。既に動き出している巨大な資金をどのようにコントロールして混乱を避けつつも利益を獲得していくか、今後の検討が必要とされる難しい課題だ。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕