地震から経済を考える

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2007年10月31日

あれからもう3年が経つ。眠りから覚めつつある街を、最大震度7の大地震が襲った。2004年10月23日の新潟県中越地震である。中越地震は新潟県北魚沼郡川口町を震源として発生し、阪神・淡路大震災以来9年ぶりとなる最大震度7を観測した地震であった。

それから約5ヶ月後の3月20日、福岡県で震度7と推定された西方沖地震が起こった。この地震で最も被害が大きかったのが博多湾沖に浮かぶ玄海島である。私は福岡で生まれ育ち、釣りをしに玄海島によく足を運んでいたため、テレビに映った玄海島の映像には衝撃を受けた。メバルやアイナメをよく釣った馴染みの防波堤にはヒビが入り、テトラポットは崩れ、多くの家が倒壊していた。自然の猛威は、時や場所、人を選ばず突然私達に襲いかかる。その被害を受けた方々の心中を察すると、胸が痛くなること計り知れ無かった。

経済への影響も多大なものであったが、このような時には「フロー」と「ストック」という2つの概念に目を向けることが必要である。「フロー」と「ストック」とは、経済の概念である。これらを一国全体の話に当てはめると、フローがGDPであり、ストックが国富である。国富とは、ある時点で存在する一国の金融資産や社会資本、企業の生産設備、土地などの実物資産から、負債を除いた純資産を表している。

我々が景気動向を知ろうとするときに最も頼りにしているのがGDPであるが、地震のような大きな災害があった場合、GDP成長率は減速するどころか加速する可能性がある。これはストックである国富を考慮に入れていないからである。災害で壊れた建造物を建て直すとGDPは増大することになるが、国富が増えるわけではない。

地震で家を失い、新しい家や家具を買い直した人にとって重要なことは「新しいものを買ったこと」よりも「これまで使っていたものを失ったこと」である。こうした予期せぬ買い替えは、少なくとも人の生活の水準もしくは数値では測れない豊かさを低下させることになる。したがって、GDPだけに注目するとミクロレベルの経済動向や定性的な動きを見落とす危険があるのだ。そのため、経済を見る場合はフローとストックの両方に目を向けて判断する必要がある。

もちろん、いかなる災害の時も、被害を突然被った方々の安定した生活回復が何よりも大切であるのは言うまでもないのだが。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司