低迷際立つ日本株の魅力を探る

~新興国30億人を幸せにできる日本企業に恩恵

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2007年10月24日

  • 三宅 一弘

日本株は海外市場に比べて低迷が目立っているが、中長期的観点で日本株の魅力を考えてみたい。まず、第一は、日本企業の収益やROEの改善が続く一方、長期金利は総じて低位にあり、両者の格差が拡大すると予想される点である。

日本企業は、10数年間にわたる構造問題(いわゆる3つの過剰問題や、銀行の不良債権問題)の処理を完了し、経営・収益体質の強化を進めており、企業価値の拡大途上にある。そのために日本企業は、マージンが高く、成長ポテンシャルの大きい海外事業の開拓を着実に進めている。加えて、リストラや事業再編、団塊世代の退職に伴う人件費比率(=人件費/売上高)の低減などを通じて、日本企業の損益分岐点比率は低下(改善)が進み、経常マージンが過去40年間で最高(最良)を更新している。コスト面では、団塊世代(ハイサラリー層)の退職と若者世代(ローサラリー層)の雇用促進という人口動態面での労働市場の変化が賃金上昇率を抑制し、人件費比率の低減が進んでおり、マージン上昇の一役を担っている。こうした団塊世代の退職に伴う人件費比率の低減効果はおそらく今後5年くらい続きそうである。

大雑把な試算ではあるが、日本企業の収益は今後中長期的に、海外事業展開の推進などを原動力に売上高が年率7~8%伸び、上述のような要因からマージンの改善が進むとみられ、年率10~15%の経常増益が予想される。

日本株の魅力の第二は、企業の株主還元姿勢が強化(改善)され、配当や自社株買いが利益の伸び以上に高い伸びが期待される点である。過剰債務や不良債権問題の処理を完了した企業や銀行は、株主にキャッシュフローの適正配分を行う局面へと移行している。日本企業の間にも成長段階に応じた配当政策(株主還元政策)に関心が強まっており、業界の代表的な企業が配当性向重視の姿勢を強めている。遅れ気味ではあるが、2010年頃に向けて、中期目標の配当性向を30%程度に引き上げるケースが増えており、今後の収益拡大を上回るペースで増配が進みそうである。(配当+自社株買い)/税引後利益でみた株主総還元性向も50~60%をメドとする動きも増えているようにみられる。

第三にマクロ的観点から言えば、世界経済を牽引する巨大新興国や資源国は、自国経済の成長・発展を目指し、投資・消費ブームの様相を呈している。一方で資源の浪費が目立ち、公害問題が深刻化しており、省エネや環境対策が最重要課題になりはじめている。結局はこうした発展途上にある総計20~30億人(先進国人口の2~3倍)が豊かになることに不可欠な産業が強く、彼らを幸せにできる国・企業が大きなメリットを享受する。その有力な国・企業の1つが日本と考えられる。

日本の産業構造は欧米先進国に比べて、(1)インフラ基盤整備に欠かせない資本財や素材、(2)消費ブームの核になる耐久消費財、特にモータリゼーションの進展に伴う自動車、(3)上記両方に係わるハイテク、特にハードウェア・製造装置のウェイトが高いという特徴を有している。中国やインドなどでは上記(1)~(3)が総じて弱い。韓国や台湾は比較的日本に近い産業構造になっており、日本の競争相手になっているが、一方で、韓国や台湾の成長には日本の資本財や製造装置、ハイエンド素材、部材などが不可欠であり、日本との協調なくして彼らの成長はないといった形での協業(分業)体制になっている。

(1)~(3)に属する日本企業には創業100年以上といった老舗企業も珍しくなく、デフレ、ハイパーインフレ、構造不況といった歴史の荒波に対して変革を進めながらサバイバルしてきた企業(一種の勝ち組)が多い。創業数十年の新興国企業に比べて歴史の変化に対する耐性力が大きく優っているといえよう。世界経済の地殻変動の恩恵を受ける最有力国の1つが日本と考えられる。日本株の再評価が待たれるところだ。

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